加齢に伴い心房細動の罹患率が高まる。その原因の一つとして、老化に伴う活性酸素種(ROS)への長期暴露が心筋細胞の機能変化を惹起するためと考えられているが、ROSへの慢性暴露が具体的にどのような電気生理学的変化を引き起こすか明らかとなっていない。本研究では老化によって発生率が高まる心房細動の原因として、ROSへの慢性暴露に着目し、心筋・骨格筋特異的Mn-SOD欠損マウス(H/M-SOD-/-)を用いて、その電気生理学的異常を明らかにすると共に、抗酸化作用物質の慢性投与によって、その電気生理学的変化が軽減するか否かを検討して、将来の心房細動発生予防法の確立を目指した。12-20週齢の野生型(WT)およびH/M-SOD-/-マウスから心臓を摘出し、酸素化した栄養液で灌流してランゲンドルフ灌流心を作製した。心房バースト頻回刺激で心房細動(AF)の誘発を試みると、WT心に比し、H/M-SOD-/-心で有効不応期(ERP)が延長すると共にそのAF発生率が高まっていた。抗酸化作用を持つリンゴポリフェノール(AP)を慢性投与するとWT心におけるAF発生率は変化しなかったが、H/M-SOD-/-心での上昇したAF発生率はWT心群と同程度まで低下した。酵素的に単離した心房筋細胞からパッチクランプ法を用いて、活動電位および膜電流を記録した。H/M-SOD-/-心房筋細胞ではWT心房筋細胞に比して、活動電位幅(APD90)が延長し、外向きK+ 電流密度が減少する傾向を示したが、AP慢性投与によってH/M-SOD-/-心房筋細胞におけるAPD90延長が軽減する傾向が観察された。このように、ROSへの慢性暴露はK+ 電流密度の減少によってAPD90の延長等の電気生理学的異常を惹起して、心房細動易誘発性に繋がるが、抗酸化作用物質の慢性投与によってこれらの電気生理学的異常は軽減することが明らかとなった。
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