研究課題/領域番号 |
23390058
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
光山 勝慶(金勝慶) 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (10195414)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / ASKファミリー / 高血圧 / メタボリックシンドローム / 血管障害 / 交感神経 / サーカディアンリズム |
研究概要 |
(1)メタボリックシンドローム(MetS)の発症を誘導する高脂肪食を、野生型マウスおよびASK1欠損マウスに約60週間(長期間)与えたところ、野生型マウスでは認知機能の低下、脳海馬神経細胞数の減少、海馬の毛細血管数減少、血管内皮機能の低下、酸化ストレス増加がみられたが、ASK1欠損マウスではこれらの変化はすべて有意に少なかった。すなわち、高脂肪食の長期摂取で起こる認知機能障害にASK1が関与している。一方、高脂肪食の長期間摂取では、野生型マウスとASK1欠損マウス間で脂肪肝や肝障害の程度、インスリン抵抗性、耐糖能に有意差はなかった。 (2)野生型マウスとASK1欠損マウスにアルドステロンを慢性的に持続注入した実験、食塩感受性高血圧ラットにアルドステロンブロッカーを投与した実験の、血管および血液サンプルのDNAマイクロアレイ、プロテインアレイを詳細に行い、エンドカン、ぺントラキシン2、ぺントラキシン3、ペリオスチン等の主に炎症関連分子がアルドステロンとASK1の共通の下流分子であることをみつけ、血管障害への関与を示唆した。 (3)テレメトリー法による血圧、心拍数のスペクトラム解析により、高血圧を呈するASK2欠損マウスでは野生型マウスと比較して血管交感神経機能が亢進しており、その機序に血管の酸化ストレス増加や細胞内カルシウム亢進が関与していた。すなわち、ASK2が酸化ストレスや血管交感神経機能を調節することにより、高血圧の成因に関与している。 (4)MetSモデルラット(SHRcp)がnon-dipper型高血圧を呈することをみつけ、MetSでみられる血圧サーカディアンリズム異常の研究に有用なモデルであることをみつけた。その機序を検討したところ、血管交感神経活動のサーカディアンリズム異常、圧受容器反射機能低下、血中アルドステロン増加、腎臓のナトリウム排泄能の低下が関与している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ASK2欠損マウスを用いた研究から、ASK2が腎機能や循環レニン・アンジオテンシン系の調節には関与しないが、血管の交感神経機能、カルシウム感受性、酸化ストレスの調節を介して、高血圧の成因や血圧サーカディアンリズムの異常に関与する分子であることを証明できた。さらに、ASK2が心肥大や血管リモデリングに関与し心血管障害の機序にも関与する分子であることが証明できた。このように、ASK2の研究は予定通り遂行でき、ASK2が有望な治療ターゲット分子であることを示した。 ASK1欠損マウスや食塩感受性高血圧ラットを用いた網羅的解析により、アルドステロンやASK1のそれぞれの下流分子を同定し、さらに両因子に共通する下流分子の中で、血管障害に関与する候補分子を同定することができた。 新たなメタボリックシンドローム(MetS)モデルラットを用いて、MetSが高血圧のみならず、血圧サーカディアンリズムの異常と関連していることをみつけた。さらに、その機序に交感神経系のサーカディアンリズム異常、圧受容器反射機能低下、腎臓でのナトリウム排泄異常、血中アルドステロン増加が関与していることをみつけた。MetSを有する患者で、高頻度にみられる血圧サーカディアンリズム異常の新しい機序を証明できた。 高脂肪食の長期間投与実験から、高脂肪食摂取により海馬神経細胞数の減少、血管内皮機能低下、海馬毛細血管数の減少がみられ、認知障害が発症することをみつけた。その機序にASK1が関与することをみつけた。一方、予想外な知見として、高脂肪食の長期摂取では脂肪肝、インスリン抵抗性、耐糖能にはASK1の関与は少ないことがわかった。 以上から、MetSの病態や脳・心血管病の機序を明らかにすることが目的である本研究は、一部予想通りの結果が得られなかったことを除いて、おおむね順調に達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
最近、腎臓神経(遠心性および求心性腎神経)が中枢交感神経と全身の代謝・循環臓器に分布する末梢交感神経間の連絡を仲介していることが、基礎のみならず臨床でも注目されるようになった。これまでの研究で、MetSの病態における交感神経系の異常が重要な役割を演じていることをみつけているので、今後は、肥満やインスリン抵抗性、脳卒中、心血管障害、腎障害等の循環器疾患の成因をさらに解明するために、腎神経の役割に着目した研究を重点的に遂行する。すなわち、MetSラットや脳卒中易発症高血圧ラットに腎神経切除術を行い、血圧サーカディアンリズム、インスリン抵抗性、耐糖能、肥満、脳卒中、心血管障害、腎障害の機序を腎神経の面から明らかにする。また、アルドステロンとASK1の下流に存在する分子で、血管障害の候補分子についてさらに検討を進める。 MetS発症のリスク因子である高脂肪食の長期間摂取が、認知機能障害を引き起こし、その機序にASK1が関与していることをみつけたので、今後、認知障害の分子機序におけるASK1の役割をさらに解明する。さらに高脂肪食負荷モデルとは別に、マイクロコイルを用いた両側頸動脈部分狭窄による慢性脳低灌流モデル(血管性認知症のモデル)を用いて、野生型とASK1欠損マウス間で詳細に比較検討することによりASK1の認知症における役割をさらに深く検討する。また、開発中の選択的ASK1阻害薬を血管性認知症モデルに投与し、認知症治療薬としての可能性を探索する。 以上から、今後は、ASK1のみならず腎神経にも着目した研究を行う。さらにMetSは認知症の最も主要な危険因子の一つであることを考慮し、ASK1を中心に認知症の機序や創薬に関する研究も重点的に行う。
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