研究課題
基盤研究(B)
細胞分化における遺伝子発現の変化には、染色体分配に関わるコヒーシンや、Mediatorと呼ばれる転写共役因子による染色体のルーピングが関与することがわかって来た。そこで本研究では、これらの因子が、造血系細胞の分化において制御する遺伝子ネットワークを解明することを目的として、以下のような解析を行なった。コヒーシンとMediatorをノックダウンし、細胞分化能と遺伝子発現変化を解析するために、それぞれの主要サブユニットに対するshRNA発現レトロウイルスベクターを作製し、分化誘導可能な造血系前駆細胞に導入した。細胞としては、B細胞分化に必須であるEBFの欠損マウスから樹立したEBF KO proB細胞を用いた。(この細胞は、Notchリガンドを発現するストローマ細胞上でIL-7濃度を下げて培養すると、T細胞へ分化を誘導することができる。)ノックダウンが確認できたものから、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞からmRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行ない、遺伝子発現の変化を調べている。次に、コヒーシンとMediatorが結合するゲノム領域を同定するために、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞で、まずコヒーシンに対するChlPを行ない、免疫沈降されたゲノムDNAを次世代シークエンサーによって解析した(ChIP-Seq)。その結果多くの結合領域を同定することができたが、コヒーシンが分化誘導特異的に結合する領域の中に、分化誘導に伴って特異的に発現が上昇する遺伝子が存在することがわかった。このことから、これらの遺伝子の発現が、T細胞分化誘導に伴って上昇するためには、コヒーシンの結合が機能的に関与する可能性を想定し、現在上記のコヒーシンとMediatorのノックダウンによる細胞分化能と遺伝子発現変化の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
コヒーシンとMediatorのノックダウンによる細胞分化能と遺伝子発現変化の解析においては、いくつかのサブユニットに対して効率よくノックダウンができ、既にノックダウンが確認できたものから、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞からmRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行ない、遺伝子発現の変化を調べている。さらに、コヒーシンに対するChIP-Seq解析を行ない、多くの結合領域を同定することができたことに加え、コヒーシンが分化誘導特異的に結合する領域の中に、分化誘導に伴って特異的に発現が上昇する遺伝子が存在するという知見を得る事ができている。
ES細胞では、コヒーシンとMediatorによって、分化制御に重要なNanogやOct4などの転写因子が制御されることから、造血系前駆細胞でも主に転写因子に注目し、さらに上記のマイクロアレイ解析によっても絞り込みをかける。さらに、アレイ解析とChIP-Seq解析で絞り込んだ転写因子の遺伝子について、コヒーシンとMediatorが直接ルーピング等の染色体構造形成に関与するか、Chromosome Conformation Capture(3C)アッセイによって解析を行なうとともに、それらの遺伝子をノックダウンして細胞分化能に変化が出ないか解析する。
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