研究課題
網膜色素編成症患者の家系分析においてSema4Aの3つのアミノ酸変異(2つは細胞外領域の345番目、350番目と細胞内領域の713番目)が報告されている(J. Med. Genetics, 2006)。しかしこれらのアミノ酸変異が視細胞の機能に及ぼす効果は不明である。そこで、申請者らは、個々のアミノ酸変異を導入した遺伝子変異Sema4Aのノックイン・マウスを作製した。1)遺伝子変異Sema4Aの細胞内移送のメカニズム網膜のSema4Aが視細胞の外節に隣接する網膜色素上皮細胞の繊毛方向に局在する。以前の研究においてSema4Aがレチノイド結合タンパク質の細胞内移動を制御することを見出し報告した(Genes & Development, 2012)。すなわちSema4Aがキャリアーとなりレチノイドタンパク質を含む細胞内小胞が早期エンドソームから後期エンドソームおよびエクソソームを介して細胞外へ放出される。遺伝子変異Sema4AはGFP融合型として発現し、細胞内輸送のどの段階に関わるかを共焦点レーザー顕微鏡を使用して追跡した。350番目のアミノ酸の変異Sema4Aは酸化刺激後の細胞膜直下への移動が阻害され、それ以外のアミノ酸変異Sema4Aは異常を示さなかった。以上より細胞内でのエンドソーム輸送にSema4Aの350番目のフェニールアラニンが重要であることを明らかにした。2)遺伝子変異Sema4Aの構造解析Sema4Aの細胞外ドメインn構造は報告されている(Nature, 2011)。350番目のアミノ酸の位置を3次元的に同定し、受容体との結合部位との位置的関係を解析した。同アミノ酸は結合部位とは反対側の分子表面に位置することが明らかとなった。以上より、Sema4Aの細胞質内移動には受容体をかいするメカニズムは介在しないことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
神経細胞間の複雑なネットワーク回路は神経線維の正確なターゲット細胞への誘導にセマフォリンに代表されるガイダンス因子が重要であるが、セマフォリンが神経発生以外に心血管発生及び免疫調節機能を有することが明らかとなっている。申請者らは網膜色素変性症の原因遺伝子の一つであるSema4Aの遺伝子欠損マウスは視細胞層の欠落を示すことを確認し、当初の研究計画において研究目標として設定した以下の実験を遂行した。成果1:Sema4Aにより膜輸送される分子群のうち視細胞の生存を決定する分子がプロサポシンであること発見した。成果2:Sema4Aによる細胞内分子群の輸送を可視化技術により時空間的に解析する技術を開発し、酸化ストレス下に網膜色素上皮細胞内でSema4Aと結合する蛋白質の細胞内輸送を解析することに成功した。成果3:網膜色素変性症の家系解析より明らかになったSema4Aにおけるアミノ酸変異を導入した変異Sema4Aを発現するノックイン・マウスを作製した。この変異導入マウスの一系統は視細胞の欠損をしめした。この変異Sema4Aの構造解析により、Sema4Aの細胞内膜輸送制御が受容体を介さないメカニズムによることをあきらかにした。以上のごとく、当初の実験計画にそって研究を行い重要な知見を得て論文のかたちで報告することができた。
本研究の特色は、網膜色素変性症の病因と報告されてきた分子群からは一線を画する神経ガイダンス因子であるセマフォリンによる視細胞変性の制御機構を解明することである。これまでのセマフォリン研究は、神経ガイダンス因子としての機能解析が中心であり、低分子量G蛋白質の活性、細胞内骨格の再構築に焦点が当てられてきた。申請者らが作成、解析してきた種々のセマフォリン欠損マウスの心血管系、免疫系の解析においてもセマフォリンの既存の概念を補強するものであった。しかし、本研究で申請者は膜型セマフォリンSema4Aが細胞内膜輸送制御を介する細胞内代謝調節に関わることを実証してきた。このように本研究はガイダンス分子の機能と細胞内膜輸送の結びつけに挑戦し、ガイダンス因子の“細胞内ガイダンス”機能の時空間的な解明を試みる研究である。今後は、網膜以外の臓器におけるセマフォリンの分子機構について、さらに研究を進めるとともに、有効な治療法のない網膜色素変性症などの難治性疾患に対するSema4A導入による機能回復をめざして遺伝子導入実験を行う予定である。
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Nat Commun
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