研究課題
1、培養表皮角化細胞株PHK16-0bを用いて、ホスホリパーゼCε(PLCε)の過剰発現ならびにsiRNAによるノックダウン実験を行い、PLCεが、腫瘍壊死因子α(TNFα)受容体下流で、NF-κB経路と協同して、炎症に重要な働きを有するケモカインCCL2(MCP-1)の1000倍にものぼる過剰発現を誘導することを証明した。PLCεを介するシグナル伝達系は、NF-κBシス結合配列依存性の転写活性(NF-κBルシフェラーゼ・レポーターを用いて測定)ならびにp65/RelAの翻訳後修飾(種々の上流キナーゼによるリン酸化)や核移行には全く影響しなかった。さらに、AP-1経路等の特異的阻害剤を用いた実験から、PLCεを介するシグナル伝達系は、NF-κB経路やAP-1経路等の既知の炎症反応に関与する経路とは異なる新規の経路であることが強く示唆された。2、PLCεのTヘルパー2細胞(Th2)依存性の炎症における機能を調べるため、卵白アルブミン(OVA)を抗原としたマウス急性喘息モデルを用い、PLCε遺伝子ノックアウト(KO)の影響を調べた。野生型とPLCεKOマウスをOVAで感作後、OVAを含むエアロゾルを吸入させ、24時間後に解析した。その結果、野生型マウスで見られるTh2免疫反応に特徴的な炎症細胞(好酸球)の細気管支周辺への浸潤や粘液産生細胞の増加、ならびに、気管支肺胞洗浄液中の好酸球数増加やTh2サイトカインであるインターロイキン(IL)-4、5、13の上昇が、KOマウスではほぼ完全に抑制されていた。さらに、メサコリン投与による気道抵抗上昇もKOマウスで著明に抑制されていた。一方、血中抗OVA免疫グロブリン濃度には差がなかった。以上の結果から、これまでに示してきたTh1、Th17依存性の炎症のみならず、Th2依存性の炎症においてもPLCεが重要な働きを有することが証明された。
2: おおむね順調に進展している
PLCεを制御する内在性リガンドとしてTNFαを同定し、下流シグナルのアウトプットとしてCCL2を同定した。また、NF-κB経路などの既知のシグナル伝達系との相互作用も解析した。さらに、これら以外のリガンドやアウトプットも既にいくつか同定している。この結果、研究目的である「PLCεの炎症・発癌促進機能に関わる新規シグナル伝達系の解明」は、研究の山場を越え研究期間内に十分達成可能となった。また、マウス急性喘息モデルを用いてPLCεのTh2タイプ免疫反応における重要性も証明し、PLCεが様々な炎症にほぼ普遍的といえる機能を有することが証明された。これらのことから、おおむね順調に進展していると判断される。
PLCεを制御する内在性リガンドならびに下流シグナルによる転写調節のアウトプットを同定できたことから、今後は、まず、PLCεの関与するシグナル伝達系がCCL2遺伝子プロモーターのいかなる転写調節シス配列を介して転写制御を行うかを解明し、既知のNF-κB経路などとの協同作用を解析する。その結果等をもとに、PLCεの上流及び下流で機能するシグナル伝達系の構成要素を全て明らかにしてゆく。また、マウス急性喘息モデルは、免疫反応発生機構が非常に詳しく解析されている上に、細胞レベルでの機能解析が行いやすいという特徴があるので、この系を用いて気道上皮細胞の役割やその作用機構を細胞・分子レベルで詳細に解析する。
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