研究課題
1、ヒト培養表皮角化細胞株PHK16-0bにおける、腫瘍壊死因子α(TNFα)刺激によるケモカインCCL2(MCP-1)のホスホリパーゼCε(PLCε)依存的なmRNAレベル上昇の分子機構の解析を目的として、PHK16-0b細胞のゲノム上のCCL2遺伝子のプロモーター領域に対応する上流4kbのDNA断片をPCR法により単離し、ルシフェラーゼ・レポーター・プラスミドへのクローニングを行い、PLCε依存性発現誘導に関与するCCL2遺伝子プロモーター上の転写調節シス配列を同定する系を構築した。2、卵白アルブミン(OVA)を抗原としたマウス急性喘息モデルでは、PLCε遺伝子ノックアウト(KO)により、Th2免疫反応に特徴的な炎症細胞(好酸球)の細気管支周辺への浸潤や粘液産生細胞の増加、気管支肺胞洗浄液中のTh2サイトカインであるインターロイキン(IL)-4などの上昇といった炎症応答が抑制される。当該年度は、その機構の解析を進めた。まず、所属リンパ節への樹状細胞による抗原の移動にはPLCεKOの影響は認められなかった。血中抗OVA免疫グロブリン濃度に対してもPLCεKOの影響がなかったこととあわせ、PLCεが抗原提示や抗原への感作に関与しないことが示された。一方、免疫組織学的解析により、PLCεが気管支上皮細胞や間質繊維芽細胞で発現が高いこと、さらに喘息誘導時のCCL2などの産生はこれらPLCε高発現細胞で高いことを明らかにした。そこで、それらの細胞を初代培養しin vitroでのTNFα刺激による炎症性サイトカイン産生能を検討した。その結果、PLCεKOマウス由来の気管支上皮細胞及び繊維芽細胞では、CCL2などのmRNAレベルの上昇が大きく減弱していることが分かった。以上の結果は、気管支上皮細胞等でのPLCε依存的なサイトカイン産生が、気管支喘息の発症に重要であることを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
PLCεの炎症促進機能の分子メカニズムの一環として、TNFα刺激によるCCL2発現誘導におけるPLCεの重要な役割が、表皮角化細胞株だけでなく初代培養気管支上皮細胞などでも明らかとなり、この経路が細胞種によらない普遍的なものであることを強く示唆できた。また、この経路の詳細な解析の鍵となるヒトCCL2遺伝子プロモーター領域を持つルシフェラーゼ・レポーターの作成を行った結果、研究目的である「PLCεの炎症・発癌促進機能に関わる新規シグナル伝達系の解明」は、研究の山場を越え研究期間内に十分達成可能となった。これらのことから、おおむね順調に進展していると判断される。
PLCεを制御する内在性リガンドならびに下流シグナルによる転写調節のアウトプットの同定、さらにその測定系の構築を済ませたので、今後は、まず、PLCεの関与するシグナル伝達系がCCL2遺伝子プロモーターのいかなる転写調節シス配列を介して転写制御を行うかを解明し、既知のNF-κB経路などとの協同作用を解析する。その結果等をもとに、PLCεの上流及び下流で機能するシグナル伝達系の構成要素を全て明らかにしてゆく。また、マウス急性喘息モデルは、免疫反応発生機構が非常に詳しく解析されている上に、細胞レベルでの機能解析が行いやすいという特徴があるので、この系を用いて気道上皮細胞の役割やその作用機構を細胞・分子レベルで詳細に解析する。
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