研究概要 |
申請者らは、これまでヘリコバクターピロリCagA組換えタンパク質を用いた構造解析を進め、CagAが二つのドメインで構成され、CagA生物活性に重要なC末端領域においては高次構造が存在する一方で、自由度の高い不規則構造も併せて存在していることを示してきた。一方、CagAのN末端フラグメントを用いた結晶化スクリーニングを行い、タンパク質結晶を得ることに成功しX線構造解析を進めてきた。 CagA分子N末端領域のタンパク質結晶を用いたX線構造解析より得られた分子構造情報を基に、構造解析に有用と予想されたアミノ酸置換を導入した変異型N末端フラグメントならびに欠失変異体を作製した。一連の組み換えCagA N末端フラグメントの結晶化及びX線構造解析を進め、CagA分子構造の詳細を明らかにした (Hayashi T et al. Cell Host Microbe 12(1), 20-33, 2012)。CagA N末端領域は3つのドメインから構成されており、CagA N末端領域はその一次構造と同様に既知の分子構造と相同性を示さない立体構造を示すことが明らかとなった。また申請者は、CagA生物活性の発現に重要なC-末端領域がN末端領域との間で分子内相互作用を示し、その相互作用によりCagA生物活性が影響を受けること示してきたが、N末端領域の立体構造情報が明らかとなり、分子内相互作用がCagA生物活性発現に及ぼす分子機構を明らかにするに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのCagA構造解析の結果から、限定された分子領域内に存在する塩基性アミノ酸残基がX線回折に影響を与えていることが示唆されていた。そこで、遺伝子的にアミノ酸置換を導入した変異型CagA分子の結晶を作成し構造解析に用いた。新たに作出した変異型分子の構造情報より、本申請課題の主目的の一つであるCagA分子構造の解明に成功し論文上に公表した。 Hayashi T., Senda M., Morohashi H., Higashi H. et al. Cell Host Microbe., 12, 20-33 (2012) このことは、本申請課題の最終目的である抗CagA活性物質の開発を達成するにあたり非常に大きな進捗であり、抗CagA活性物質の開発に着手できる状況に至った。得られたCagA分子の表面分形状に関する構造情報に基づき、CagAと他の分子との相互作用を in silico でシュミレーションを行う準備に着手した。
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