研究課題/領域番号 |
23390078
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
門松 健治 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80204519)
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研究分担者 |
武井 佳史 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70362233)
岸田 聡 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20402563)
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キーワード | 成長因子 / ミッドカイン / 血圧 / 血管内皮 / 受容体 |
研究概要 |
ミッドカイン(MK)は、プレイオトロフィンのみを仲間にファミリーを形成するユニークな成長因子である。細胞の生存や遊走の促進などの作用により多彩な病態の発生進展あるいは抑制に関与する。いくつかの受容体が報告されたがその実態ならびに下流のシグナルについては依然として不明である。私たちは最近、MKが慢性腎不全に伴う高血圧で肺の血管内皮に作用してレニン・アンギオテンシン系の重要な制御因子として働き、腎肺相関という新しい臓器間相関のメディエーターの役割を果たすことを報告した。本研究では血管内皮と臓器間相関メディエーターの2つに着目して、MKの受容体を同定し、その細胞内シグナルを解明することを目的にする。 そのためにMKアフィニティーカラム、LC/MS/MS、MK alkaline phophataseなどを用いてMK結合分子の解析を行った。特にMK alkaline phophataseを用いたMKの細胞結合を指標に、この結合阻害活性をもつRNAアプタマー、抗MKモノクローナル抗体の開発に成功した。今後、これらはMK受容体およびその下流シグナルの分析に有用なツールとなる。 また、NOS阻害剤による血管内皮細胞傷害を介した高血圧モデルにおいてMK欠損マウスに高血圧が生じないことを発見した。その基盤となる機構を探るとこれまであまり詳細な解析の進んでいないエイコサノイドと血圧制御の関係が浮かび上がった。今後この機構を明らかにすることでMK作用機構の解明に寄与すると考えられる。 さらに小児がん神経芽腫モデルにおいて腫瘍形成過程にNotch2がMK受容体として働く可能性が浮上してきた。このコンセプトはもう少し検証を要するが、仮にMK-Notch2の関係が明白となると上記の血管内皮細胞傷害高血圧モデルなどMKが機能する様々な場面での機構解明に繋がる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NOS阻害剤による血管内皮細胞傷害を介した高血圧モデルにおいてMK欠損マウスに高血圧が生じない。これまで示唆されてきたレニン・アンギオテンシン系に加えて、エイコサノイドを含む新たな血圧制御系にMKが関わる可能性が示された。この発見は本研究を遂行するうえで特に重要で、腎肺相関に留まらず、血管を介した多臓器相関にMKが関わる可能性を示唆する。MKの標的細胞の一つとして血管内皮細胞を想定することができるようになった意義は大きい。 MKの作用機構を解くためのツールとして本年度RNAアプタマー、抗MKモノクローナル抗体の開発に成功した意義は大きい。また、神経芽腫でのMK-Notch2の関係が検証されれば上述の高血圧モデルを支える機構の解明の一助となるであろう。 本年度は多少の紆余曲折はあったが、それを補って余りある成果を収めることができた。MKの受容体を同定し、その細胞内シグナルを解明するという当初の目的に対して、本年度設定されたレベルの達成度に達したと評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
MKがレニン・アンギオテンシン系以外でも血圧のコントロールに重要な働きを行うことが分かった。今後はその知見を基にこれを発展させる。すなわち、この血圧コンロールの系においてMKの作用起点はどこにあるのか、受容体に相当する分子は何か、といった疑問を追及したい。 1. モデルとしてここでは血管内皮細胞を仮に利用する。血管内皮細胞でのMK受容体についてはMK-Fc protein A beadsと細胞間の化学的クロスリンクとLC/MS/MSを用いた手法、あるいはMK alkaline phophataseと発現クローニングなどにより絞込みを行う。血管内皮細胞は初代培養も可能である。MK欠損マウスから調整した血管内皮細胞にMKを投与するなどにより、上述の血圧コントロールに関連する細胞内シグナルがどのように動くのかを解析する。一方、MK機能を中和する抗体を用いて、野生型マウスから調整した血管内皮細胞に対する中和抗体を効果を細胞内シグナルなども含めて判定する。 2. がん細胞などで注目され始めたNotch2。 Notch2がMKの新たな受容体である可能性が出てきた。その生物活性は血管内皮細胞に加えて、がん細胞増殖、炎症細胞遊走などを目安に多角的に検証する。さらに、Notch2のin vivoでの機能を5/6腎摘ならびに血管内皮傷害モデルを用いて解析する。 3. 受容体候補について既報の受容体も含めて複合体形成の可能性について解析する。
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