研究課題
ミッドカイン(MK)は、プレイオトロフィンのみを仲間にファミリーを形成するユニークな成長因子である。細胞の生存や遊走の促進などの作用により多彩な病態の発生進展あるいは抑制に関与する。いくつかの受容体が報告されたがその実態ならびに下流のシグナルについては依然として不明である。これまで私たちは、MKが慢性腎不全に伴う高血圧で肺の血管内皮に作用してレニン・アンギオテンシン系の重要な制御因子として働き、腎肺相関という新しい臓器間相関のメディエーターの役割を果たすことを報告した。本研究では血管内皮と臓器間相関メディエーターの2つに着目して、MKの受容体を同定し、その細胞内シグナルを解明することを目的にする。昨年度、MK alkaline phophataseを用いたMKの細胞結合を指標に、この結合阻害活性をもつRNAアプタマー、抗MKモノクローナル抗体の開発に成功した。本年度は、特にaffinity maturationの手法を用いて、より親和性の強いMK抗体を得ることができた。今後、これらはMK受容体およびその下流シグナルの分析に有用なツールとなる。例えば、昨年度見出した児がん神経芽腫モデルにおいて腫瘍形成過程にMK受容体として働くNotch2についてその下流を知る手がかりを与える。また、昨年度、NOS阻害剤による血管内皮細胞傷害を介した高血圧モデルにおいてMK欠損マウスに高血圧が生じないことを発見した。その基盤となる機構として血管弛緩因子EDHF (Endothelium-Derived Hyperpolarizing Factor)の一つであるEETs (epoxyeicosatrienoic acids )の産生をMKが抑制することを見出した。MKの欠損によってEETsが相対的に増えることが高血圧を免れる原因になっていると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
これまでMKの関与が証明されてきたレニン・アンギオテンシン系に加えて、エイコサノイドを含む新たな血圧制御系にMKが関わる可能性が示された。これまであまり詳細な解析の進んでいないエイコサノイドと血圧制御の関係明らかにすることでMK作用機構の解明に寄与すると考えられる。殊にEETsの産生と分解、またEETsの作用機構については多くの基点を考慮する必要がある。例えば、EETsはCYP450sによってアラキドン酸から作られ、sEH(soluble epoxide hydrolase)によって分解される。EETsの過剰は従って、CYP450s の亢進でもsEH の減弱でも引き起こされることが理論的には可能である。MKによる制御はそのどこに関わるのか、興味深い。また、この発見は「MKの標的細胞の一つとして血管内皮細胞がある」というコンセプトをほぼ確実なものにしたという意味でも意義は大きい。MKの作用機構を解くためのツールとして昨年度開発したRNAアプタマー、抗MKモノクローナル抗体を発展させ、より親和性の高いモノクローナル抗体作成に成功した意義は大きい。というのも、この抗体は、例えば神経芽腫でのMK-Notch2の下流の解析に有用となるばかりでなく、MKを標的としてがん治療への応用も考えることができるからである。本年度は昨年度の成果を着実に発展させ、次年度への指針を与える成果を収めることができた。MKの受容体を同定し、その細胞内シグナルを解明するという当初の目的に対して、本年度設定されたレベルの達成度に達したと評価することができる。
MKがEETs産生とその下流にどのように関わり、血圧をコントロールするのか。また、Notch2によるMKのシグナリングの本態は何か。このような課題の解決が来年度の目標となる。1. EETsの産生と代謝:EETsはアラキドン酸からCYP450sを介して産生され、sEHを介して血管拡張活性を失ったDHETに分解される。CYP450sの上流にはおそらくA2AR(アデノシン受容体)がある。というのもアデノシンによってA2ARが活性化され、それに伴ってEETs産生が増加することが知られているからである。従って、(A2AR)→(CYP450s)→EETs→(sEH)→DHETという一連のEETsの産生と代謝を予想できる。MKがこのどこの基点で働くかを解析する。そのためにMK欠損マウスおよび野生型マウスに片腎摘を施した後、NOS阻害剤であるL-NAMEを投与して引き起こした血管内皮傷害による高血圧モデルを用いる。2. Notch2とその下流:Notch2、MK、どちらのノックダウンでも神経芽腫細胞は細胞死を引き起こす。MK-Notch2の軸が重要なのはほぼ間違いない。その下流で動く分子の同定のためにMKノックアウトマウスと野生型マウスの神経芽腫で発現に差のある遺伝子、予後と相関のある遺伝子、の2つの基準で候補遺伝子を絞り込む。さらに神経芽腫細胞のMKノックダウン、あるいはアプタマーや抗体によるブロックで動く遺伝子をさらに絞り込む。3. EETsとNotch2のリンク:血管内皮上でNotch2が働くとすれば、EETsの機構とNotch2の機構とは繋がることが予想される。この仮説を検証する。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Cancer Res.
巻: 73 ページ: 1318-1327
10.1158/0008-5472.CAN-12-3070.
Am J Pathol.
巻: 182 ページ: 410-419
10.1016/j.ajpath.2012.10.016.
Pathol Int.
巻: 62 ページ: 445-455
10.1111/j.1440-1827.2012.02815.x.
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/biochem/