研究課題/領域番号 |
23390080
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
谷澤 幸生 山口大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (00217142)
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研究分担者 |
太田 康晴 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (60448280)
田部 勝也 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (00397994)
幡中 雅行 山口大学, 大学院・医学系研究科, 助教 (60572534)
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キーワード | Wolfram症候群 / インスリン分泌 / 糖尿病 / 小胞体ストレス |
研究概要 |
Wolfram症候群はβ細胞の選択的消失によるインスリン依存性糖尿病と視神経萎縮を主要徴候とする常染色体劣性遺伝性疾患である。我々は世界に先駆けて主要な原因遺伝子WFS1を同定した。WFS1蛋白質は小胞体膜に存在し、小胞体ストレス応答に関与することが我々、ならびに他の研究者によって明らかにされている。しかしながら、WFS1蛋白質の分子機能については未解明な点が多い。 我々は最近、WFS1蛋白質が小胞体のみならず、膵β細胞においてはインスリン分泌顆粒に豊富に存在することを見い出した。さらに、WFS1欠損マウスのベータ細胞では、インスリン分泌顆粒内の酸性化障害を伴っていた。分泌顆粒の酸性化はインスリンのプロセッシングに重要であるのみならず、最近では、インスリンのエキソサイトーシスに際して、分泌顆粒の「プライミング」に必要であることが報告されている。これに呼応するように、WFS1欠損マウスのランゲルハンス氏島及び血中では、インスリン/プロインスリン比が低下し、インスリンのプロセッシング障害が生じていることが明らかとなった。加えて、糖負荷試験時のインスリン分泌初期反応が著しく低下していることが観察された。このことは、分泌顆粒の「プライミング」異常を裏付けるものと考えている。 WFS1蛋白質のインスリン分泌調節における役割をさらに検討するために、単離ラ氏島のstatic incubationならびに、膵潅流により各種刺激に対するインスリン分泌応答プロフィールをさらに詳細に検討した。その結果、ブドウ糖に対するインスリン分泌の初期応答(第1相)が著しく障害されていた。第2相の分泌は比較的保たれていた。また、KC1刺激によるインスリン分泌も顕著に障害され、分泌穎粒上のWFS1蛋白質が、ベータ細胞膜の脱分極によってトリッガーされる早期の分泌に重要な役割を演じることが示唆された。 これらの事象が、インスリン分泌顆粒内の酸性化障害で説明可能か、WFS1は、この酸性化を規定するプロトンチャネルやクロライドチャネルの活性制御に係わるのか、WFSIの分子機能を解明して行くことが今後の課題である。 小胞体ストレスによるベータ細胞アポトーシスの機序に関しては、GSK3ベータの活性亢進によるATF4の不安定化が関与することを見い出して、さらにそのメカニズムを検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、分泌顆粒上に存在するWFS1蛋白質の意義について、知見が得られつつある。また、小胞体ストレスによるβ細胞死のメカニズムについてもほぼ順調に解析が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
さらにベータ細胞におけるWFS1蛋白質の機能について解明を進めて行く。また、Wolfram症候群での糖尿病発症、進展の阻止を目指して、治療の可能性を探る。インクレチン薬が部分で期に有効である可能性が有、検討を進める。 ブドウ糖に対するインスリン分泌応答の障害、アポトーシスによるβ細胞死は2型糖尿病でも共通にみられる事象であり、2型糖尿病の病態解明に繋げて行きたい。
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