研究課題
14q32.2領域にはインプリンティング遺伝子が多数存在し、14番染色体父親性ダイソミー (UPD(14)pat) は、羊水過多、ベル型の小胸郭、腹壁異常、胎盤過形成を示す。インプリンティング遺伝子は胎盤・胎児の発育に重要な役割を果たす。我々はUPD(14)pat表現型を示す患者の胎盤解析で、UPD(14)pat胎盤での発現量は、正常に比較し、父性発現遺伝子のRTL1は4-5倍、DLK1の発現量は約2倍を示し、母性発現遺伝子であるMEG3, MEG8, snoRNAs, microRNAsの発現は消失していた。DLK1抗体、RTL1抗体を用いた免疫染色ではRTL1については発現量が著しく増加していたが、胎盤過形成を認める微小欠失症例ではDLK1の発現は正常と同程度であった。以上の結果から胎盤過形成はRTL1の過剰発現によることがあきらかとなった。これまでRTL1の発現制御はマウスにおいて検討されており、母性発現遺伝子であるRtl1as上のmicroRNAsが父性発現遺伝子のRtl1の発現をtransに抑制していることが明らかとなっていたが、ヒトでは検討されていなかった。本研究で、UPD(14)pat胎盤において、RTL1発現量が正常コントロールに比較し4-5倍程度発現していることが明らかとなった。これは、14番染色体がともに父親に由来することから、RTL1as上のmicroRNAの発現がなく、RTL1の発現抑制がなくなり、1コピーあたりのRTL1の発現量が2-2.5倍となり、両アレルから2コピーのRTL1が発現し、4-5倍の発現量になったと推測される。以上の結果はヒトにおけるRTL1の発現制御がRTL1as上のmicroRNAによってRNAiのメカニズムで行われていることを明らかにした初めての報告となった
2: おおむね順調に進展している
われわれはこれまでに、UPD(14)pat表現型を示す患者の胎盤を用いた解析により、胎盤における14番染色体インプリンティング遺伝子の機能および制御メカニズムを明らかにし、論文発表を行い(2012, Epigenetics, Kagami et al)、研究は順調に進展していると考えている。さらに、原因不明の低形成および過形成の胎盤において、インプリンティング遺伝子が関連しているかどうかを検討するため、保存されている原因不明低形成胎盤、過形成胎盤を用いて、14番染色体インプリンティング遺伝子であるRTL1, DLK1および11番染色体インプリンティング遺伝子であるIGF2、KIP2の免疫染色を進めている。約40例の胎盤サンプルを用いたRTL1の免疫染色では、原因不明の過形成胎盤のうち2例でRTL1の過剰発現を認めたため、責任メチル化可変領域のメチル化解析、責任遺伝子の変異解析などを進めている。
これまでに進めてきた、原因不明の低形成胎盤および過形成胎盤におけるインプリンティング遺伝子の関連を明らかにするために研究を進める。上記のとおり、14番染色体インプリンティング遺伝子であるRTL1、DLK1、11番染色体インプリンティング遺伝子であるIGF2、KIP2の発現を原因不明の低形成胎盤および過形成胎盤で検討し、発現異常を認めた胎盤からDNA, RNAを抽出し、インプリンティング遺伝子の変異解析および、責任調節領域の構造異常の検索、遺伝子発現を検討する。関連性が明確となった場合は、胎盤発育異常を伴う子宮内胎児発育遅延児において関連遺伝子および関連領域の構造異常の有無を検索する。
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http://nch.go.jp/endocrinology/
http://www.nch.go.jp/endocrinology/upd14/index.html