研究課題
心筋梗塞や脳卒中に代表されるアテローム血栓症は、日本人の死因の約1/3を占めている。これには高血圧、脂質異常症、糖尿病などの危険因子が関与しているが、中でも糖尿病の影響は極めて大きい。糖尿病患者では、動脈硬化の進行が速く、予後も不良である。また糖尿病による動脈硬化は他の危険因子のそれとは異なることが指摘されているが、その機序の詳細は不明で、治療効果判定に有用な指標マーカーも存在しない。本研究では、ヒトの病理標本と動物実験により糖尿病性動脈硬化の病理像と代謝物質・代謝経路を解析し、糖尿病におけるアテローム血栓症の発症機序の解明と新規治療法への展開を目的としている。25年度は動脈硬化病変における代謝系の変動を網羅的に解析し、それをベースとした画像診断への展開を中心に研究を進めた。ウサギの下肢動脈にマクロファージが豊富な動脈硬化病変と平滑筋細胞が豊富な病変を作成し、糖代謝系の網羅的解析を行った。その結果、マクロファージに富んだ病変では、解糖系が著明に亢進しており、これはマクロファージの活性化に依存するとともに、病変内の低酸素環境が深く関与しているを示した。一方、糖尿病性病変では、解糖系および脂質代謝系で非糖尿病とは大きく異なる代謝変動が観察された。これに基づいて、アイソトープ標識したグルコースアナログ (FDG) を用いて動脈硬化病変の画像イメージングを行った。その結果、アイソトープの取込は、動脈硬化巣に一致して明瞭に観察され、取込量は、マクロファージ数ならびに血栓形成能と正相関することを示した。また血栓能が亢進する機序としては、低酸素下においてマクロファージはNF-kBを介して組織因子の発現を亢進させることが観察された。
2: おおむね順調に進展している
25年度は、動脈硬化病変における代謝系変動の網羅的解析と画像診断への展開を中心に行った。解糖系をターゲットとした画像イメージングでは、動脈硬化巣(特に低酸素領域が広い病変)では描出が可能で、かつ病変の血栓形成能も評価できることが確認された。糖尿病性動脈硬化症での特異的な代謝産物は約80種を同定しており、現在新規マーカーとしての可能性の検討を進めている。ヒトの糖尿病性動脈硬化病変での代謝系の解析もスタートしており、全体として研究内容はおおむね順調に進展している。
糖尿病患者の血管手術標本の収集も進んでおり、病理組織解析と代謝系の網羅的解析を用いて、糖尿病性動脈硬化におけるエネルギー代謝の包括的検討を進めている。本年度は最終年度であり、これらの結果に基づいて、臨床現場に応用可能な画像診断および血液診断における新規バイオマーカーの同定を目指す。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
PLoS One
巻: 23 ページ: e86426
PMID: 24466087
Circ J
巻: 77 ページ: 2626-2635
PMID: 23832535
http://www.miyazaki-med.ac.jp/patho1/index.htm