糖尿病患者の動脈硬化症は進行が速く、動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳卒中)の予後も不良で、他の危険因子による動脈硬化症とは病態が異なることが指摘されてきた。しかし、その詳細な機序はまだ不明で、診断や治療効果判定に有用な指標マーカーも存在しない。本研究では、ヒトと実験動物の糖尿病性動脈硬化の病理像と代謝物質・代謝経路を解析し、糖尿病におけるアテローム血栓症の発症機序の解明と新規治療法への展開を目的としている。26年度は動脈硬化巣における代謝変化について低酸素の作用と血栓形成能との関連を中心に研究を進めた。 高脂血症ウサギの下肢動脈にバルーン障害により動脈硬化を作成し、動脈硬化巣における低酸素領域の分布、ならびに硬化巣の血栓形成能との関連について解析した。その結果、低酸素領域は硬化巣の深部にみられ、病巣の増大に伴って拡大していた。低酸素領域では強い凝固活性が観察され、組織因子とPAI-1 (plasminogen activator inhibitor-1)の発現亢進がみられた。これらの発現は主にマクロファージにみられ、これらはNF-kBとHIF-1aのクロストークによって発現が調節されていることを明らかにした。 硬化巣のメタボローム解析では、低酸素領域のマクロファージは糖代謝(解糖系)が著しく亢進しており、アイソトープ標識したグルコースアナログ (FDG) の取込も著増していた。動物モデルでは、臨床用PET機器を用いた画像診断により血栓形成能の高い動脈硬化巣の検出の可能性を提示しえた。 一方、糖尿病性動脈硬化巣では、解糖系の亢進は抑制されており、硬化巣の血栓形成能や画像診断の指標には糖代謝系以外の代謝産物が必要となる。現在、ヒトの動脈硬化巣において、同様の検討を進めており、数種類の候補物質を同定している。
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