研究課題
研究開始時までに、インフルエンザウイルスエントリーには、Ras-PI3Kの結合とその上流因子としての細胞内カルシウムシグナル、およびRhoファミリーGタンパク質群が関与することが明らかになっていた。本年度には、これら個々のシグナル伝達要素活性化・不活性化の分子機構を、生化学的実験とGFPやFRETを用いた蛍光バイオイメージング手法により時空間的に解析した。その結果、ウイルス感染により宿主細胞内カルシウム濃度が上昇し、その下流で低分子量GTP結合タンパク質RhoAが活性化、さらにその下流で再びカルシウム濃度が上昇するという循環したシグナルによって、Ras-PI3Kシグナルが活性化されることを突き止めた。また、これらRhoAによるカルシウム上昇には、ROCK-PIP5K-PLCが関与することを明らかにした。特にROCKについては、RhoAの下流因子でアクチンストレスファイバーの形成に関与するキナーゼとして知られていたが、ウイルス感染時にはROCKのキナーゼ活性はむしろ負に機能しており、カルシウムシグナルに対する正の制御ではRhoAとPIP5Kを橋渡しするアダプター分子として機能していることが新規に同定された。これらの成果は、ウイルス侵入において重要な鍵であるカルシウムシグナルを標的としたウイルス感染対策基盤への発展が期待される。一方、PI3KのRas結合領域には他の標的因子には無い特徴的なアミノ酸配列が存在し、この配列がRas-PI3K複合体のエンドゾーム移行およびエンドサイトーシス制御に重要であることを見出していた。本年度はこの配列を実際のペプチド製剤として応用可能な長さまでに削り込むことに成功した。具体的には、上記アミノ酸配列を10アミノ酸ずつに分割したペプチドを培養細胞に発現させ、中央の10アミノ酸がウイルス感染抑制効果に必要十分であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
インフルエンザウイルスの細胞内侵入に重要なシグナルネットワークの全貌を予定通りの期間に解明し、現在その成果をEMBO Journalに投稿しrevise中である。Ras-PI3Kのエンドゾームに移行に必要なPI3K特異的配列からエンドサイトーシスとウイルス感染の抑制に必要十分な配列を同定した。今回達成したペプチド長は実用化可能な短さであることから、当初の目的を達している。
インフルエンザウイルスの細胞内侵入の重要な鍵であるカルシウムシグナルを標的としたウイルス感染対策基盤への発展が期待されるものの、カルシウム自身は正常細胞のホメオスタシスに重要であるため、標的とすることは現実的ではない。そこで、インフルエンザウイルスがカルシウム上昇を惹起するメカニズムを明らかにする。また、PI3K由来ペプチドについては、今年度同定した必要十分なペプチドにポリリジン等の細胞内移行シグナルを付加し、実際の細胞での感染抑制効果を検討すると主に、ヒト培養細胞でのTwo-hybridスクリーニング系を導入し、結合因子群の同定を行う。
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