研究概要 |
AIDトランスジェニックマウスに発生する肺病変の組織学的および遺伝学的解析を行なった。近年同定された肺呼吸上皮の再生マーカーである p63, keratin 5, keratin 14, Lgr6 を発現していた事、EdU ラベル後のチェース実験から寿命が1カ月程度の一過性病変である事が分かった。また電顕観察により幼弱な粘液産生細胞である事が判明した。p53, K-ras, EFGR 遺伝子の変異検索を行ったが変異率はヒトの肺癌前癌病変である異型腺腫様過形成 (atypical adenomatous hyperplasia, AAH) で報告されている変異よりはるかに小さく、ほとんどの病変で変異を検出することができなかった。これらのことからAIDトランスジェニックマウスの肺病変は肺上皮の再生病変であると考えられた。AIDトランスジェニックマウスの肺ではアポトーシスが亢進していた。従って、AIDによる遺伝子変異の結果、一部の細胞が死滅しているのではないかと思われる。これを補うために組織再生が行なわれ、一見 AAH に類似した病変が出現すると考えられた。AIDトランスジェニックマウスの1割の個体で観察される肺腫瘍はこの再生病変でAIDが遺伝子変異を引き起こす結果、腫瘍化したものである可能性が考えられた。 AID遺伝子に赤色蛍光タンパクRFPをコードする遺伝子をノックインしたマウスを組織学的に解析した結果、RFPの発現がAIDの発現を忠実に反映している事を確認できた。今後これを用いた発癌誘導実験を行う。
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