研究課題
本研究では、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori,Hp)の胃粘膜長期感染成立メカニズムの包括的理解を目指して、本菌と感染宿主の時間的・空間的相互作用に焦点を絞り、次の研究を企図した。(A)Hp発現動態解析:ヒト類似高病原性スナネズミ感染株と、低病原性マウス感染株の感染経時的な網羅的発現動態を比較して、感染ステージごとのヒト病原性に重要な菌体因子を同定する。(B)胃での反応解析:感染経時的なHp発現変動に対応した胃上皮発現動態を解析して長期定着機構を解明する。(C)腸管パイエル板(PP)での反応解析:抗原取込み器官における菌体と宿主の相互作用と抗原提示メカニズムを解析する。平成23年度は以下の成果を得た。(A)感染経時的な発現動態解析のためのトランスクリプトーム解析の準備として、de novo解析による全ゲノムおよびプラスミド配列決定を、高病原性スナネズミ株と低病原性マウス株について行った。今回さらに、高病原性マウス株も入手したため、当該ゲノム配列の解析も行うことができた。現在サンガー法により補足データ解析を進行中である。(B)胃でのHp定着には、感染初期においては、菌体付着因子BabAと宿主のルイスb糖鎖抗原との結合が重要であることが明らかとなった。このBabAとルイスbによる結合は、単なる菌体付着のみならず、菌のIV型分泌装置活性にも重要であることが明らかとなった。(C)Hpによる抗原提示メカニズム解析の予備検討として、菌体のouter membrane vesicle(OMV)が上皮および繊維芽細胞に惹起するオートファジーを精査した結果、OMVが誘導するオートファジーによりサイトカイン産生が影響を受けることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度は、感染経時的な胃およびパイエル板での反応を解析するための準備として、denovo解析による全ゲノム配列決定を行った。当該解析を、当初予定していた高病原性スナネズミ株と低病原性マウス株のみならず、新たに入手した高病原性マウス株についても行うことができた。これにより、各種遺伝子改変動物が作出されているマウスを用いたin vivo実験への展開が、当初の予定よりも容易となることが期待できる。
平成24年度は以下の研究を行う。・感染経時的な胃での反応解析:スナネズミおよびマウス感染モデルにおいて、感染経時的に胃を摘出し、上皮層から調製したtotal RNAをマイクロアレイ解析(スナネズミ解析は遺伝的に近縁のマウスチップで代用)に供し、感染経時的な宿主発現パターンの変動を解析する。・感染経時的に変化する球状菌のPP侵入分子機序の解明:らせん状菌と球状菌の表面タンパク質プロファイルの網羅的解析を行う。
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