研究概要 |
肺炎レンサ球菌による重症肺炎患者の血液検体では,肺炎レンサ球菌と赤血球が結合した像が多数認められる.また,赤血球輸血により肺炎レンサ球菌による敗血症が引き起こされた症例も報告されている. そこで本研究では肺炎レンサ球菌と赤血球の結合が,感染の成立に及ぼす影響について調べた.まず,研究代表者の所属するタイ国において,重症肺炎患児由来の肺炎レンサ球菌株を収集した.そして,同菌株の莢膜血清型を莢膜型別用免疫血清によって決定した. in vivoの実験系では,肺炎レンサ球菌と赤血球を混和し,走査型電子顕微鏡ならびに共焦点レーザー蛍光顕微鏡による観察を行った.その結果,肺炎レンサ球菌は赤血球に結合し侵入することが示唆された.続いて,赤血球に結合する肺炎レンサ球菌のタンパクをリガンドブロット法および質量分析装置を用いて同定した.血球結合タンパクとして,FusA, DnaK, Enolaseが赤同定された.次に,赤血球が共存した場合の肺炎レンサ球菌の生育と増殖について調べた.赤血球の添加により,肺炎レンサ球菌の有意な増殖促進が認められた.肺炎レンサ球菌は,細菌培養培地中では自己溶菌し,1~2日間しか生存できない.しかしながら,赤血球の共存により,4℃における28日以上の生存延長が観察された. in vivoの実験系では,マウスに重症肺炎患者由来の肺炎レンサ球菌を気管から感染させ,肺の組織切片を作製し検鏡した.その結果,ヒトの重症肺炎患者の臨床病理像と同様に,細菌が赤血球に重なっている像が得られた. 以上の結果より,肺炎レンサ球菌は肺感染時に赤血球に侵入することで,増殖促進および長期生存を果たす可能性が推察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画調書に記載した臨床分離菌株の収集,および新規の病原因子として機能する菌体表層タンパクの同定と性状解析を進めることができた.さらに,中間成果報告として,研究結果の一部を国際的な学術専門誌に投稿したところ,専門家による審査に附された後に受理されたため,「(1)当初の計画以上に進展している」と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,計画調書に従い研究を進める.すなわち,肺炎レンサ球菌のゲノムデータベースおよびMEROPSサイトを利用し,各種プロテアーゼの機能ドメインを持つ遺伝子を網羅的に選出する.選出した推定プロテアーゼについて,組換えタンパク,特異的抗血清,ならびに遺伝子欠失変異株を作製する.続いて,組換えタンパクのサイトカインや補体成分に対する分解能をウエスタンブロット法にて分析する.さらに,当該遺伝子を欠失させた変異株と野生株の抗貪食能および免疫成分の分解能を比較する.
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