研究課題/領域番号 |
23390113
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
野本 明男 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 所長 (70112670)
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キーワード | ポリオウイルス / 病原性 / 血液脳関門 / 特異的体内伝播 / 宿主因子 |
研究概要 |
これまでに、ポリオウイルス(PV)の血液脳関門(BBB)透過には、ポリオウイルス受容体(PVR)は必要としないことが明らかとなっている。そこで、PVのBBB透過に必要な細胞側受容体(感染に必要な受容体ではなく、トランスサイトーシスに必要な受容体)を同定するため、マウスの脳血管内皮細胞から樹立したMBEC4細胞を使用し、PVと結合する細胞表面分子の同定を以下のように行った。 PV粒子を大量に精製し、細胞の細胞質画分と混合し、一定時間後、PV抗体で免疫沈降を行い、PV粒子と共沈殿する細胞側分子を得、この画分をゲル電気泳動で分離した後、ゲル上の各画分を質量分析器により分析した。その結果、PVと結合するMBEC4細胞の表面分子は、トランスフェリン受容体(TfR)である可能性が示された。実際に、TfRが、PVと結合することを試験管内反応で証明しているので、TfRがPVのトランスサイトーシスのための受容体として有力である。しかし、当受容体が、PVトランスサイトーシスの唯一の受容体であるかを、現在検討中である。 TfR上のどのペプチドがPVとの結合に関与しているかを知るためにTfRの各ドメインをそれぞれ発現させ、PVとの結合性を検討した。その結果、TfRのAD(apical domain)に当該ペプチドが存在する可能性が示唆された。現在、そのペプチドを同定するために更なる詳細な実験を行っているが、現在までに、9アミノ酸からなるペプチド領域を同定している。次に、PV粒子上の、TfRとの結合に関与するペプチドを同定しているが、現在までに複数のペプチドが候補となっており、更なる研究が必要である。 運動神経細胞に高効率で分化するiPS細胞を産総研から入手し、取り扱い法を習得した。これから、PVの感染実験に取り組むところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PVがBBBを透過する際に使用する受容体は、TfRであることを、ほぼ同定出来た。このTfRが、PVのトランスサイトーシスのための唯一の受容体であるかの検討はまだ残って居るものの、実施計画の主な目標をクリアーしている。また、PVとTfRとの結合に関与しているそれぞれのペプチドの同定も、順調に進んでおり、今後の進展に期待が持てる。さらに、サブ的な課題であるiPS細胞を使用したPV感染実験の準備状況も満足すべき状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
神経向性を持つウイルスの多くは、BBBを透過すると考えられている。しかしながら、現在までにBBB透過機構が明らかにされた例は知られていない。本研究では、PVを対象としているが、神経性ウイルスの多くが同様のメカニズムで血流中から中枢神経系に侵入している可能性がある。ウイルスの体内伝播の重要な経路を明らかにすることは、ウイルス病原性研究にとって非常に重要と考えている。また、PVの体内伝播経路として、筋肉から神経シナプス経由で中枢神経系に伝播する経路が知られている。この経路にも、PVR非依存的伝播機構があることが明らかにされている。この機構にTfRの関与があるか否かも視点に入れて研究を展開したい。体内伝播後の神経細胞への特異的感染に関しても、ips細胞からの分化細胞を使用して明らかにする。
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