研究課題/領域番号 |
23390116
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
小池 智 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医学研究分野, 副参事研究員 (30195630)
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研究分担者 |
藤井 健 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (10580201)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 感染症 / ウイルス / 脳神経疾患 |
研究概要 |
エンテロウイルス71(EV71)は通常手足口病の原因となるウイルスであるが、近年アジアを中心に流行し、乳幼児に急性脳炎を引き起こし、ウイルス学・公衆衛生学上の大きな問題となっている。現在までこのウイルスの感染動物モデルは乳のみマウスモデルとサルモデルが用いられているが、どちらにも欠点がある。我々はこれまでにEV71の受容体としてScavenger receptor B2 (SCARB2)を同定した。そこでこのウイルスの神経病原性発現機構の分子基盤を明らかにするために、SCARB2発現するトランスジェニックマウス(SCARB2tgマウス)を作製・確立し、そのモデルを用いてウイルスの神経病原性の強弱を決定する分子機構を明らかにすることを目的としている。 平成24年度は前年度に引き続きSCARB2tgマウスモデルの確立を行った。ヒトSCARB2遺伝子全領域を含むBACクローンを導入したtgマウス6系統のうちの一つSCARB2tg10系統はウイルス感受性があり、繁殖効率も良好であった。今年度はこのマウス系統にEV71 Isehara株、SK-EV006株、BrCr株、C7株等を接種し、その病原性を比較した。BrCr株、C7株は乳のみマウスモデルでは病原性を示さないが、SCARB2tgマウスではすべての株で脳内接種、腹腔内接種、静脈内接種により神経症状を示した。Isehara株が最も神経毒力が高く、他の3株の毒力はより低かった。これらの株がtgマウスにおいて異なった毒力を示したことは、このマウスモデルを用いてウイルス株間の毒力差を測定できる可能性を示している。今後接種方法や評価方法を詳細に検討し、複数の野外分離株を接種してその毒力を検討することなどにより、ウイルス側の毒力決定基の検索を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度作製したtgマウスの中から繁殖効率やウイルス感受性等を考慮し、今後使用できる系統の選抜が行えた。 選抜した系統を用いて、複数の代表的な株を感染する実験を行い、全ての株に対してウイルス感受性を示すことが証明できた。乳のみマウスモデルでは幾つかの乳のみマウスにアダプトしていると思われる株のみでしか実験ができない欠点を克服していることが明らかになった。 Isehara株は接種した株の中でもっとも高い病原性を示したので、株による病原性の違いが存在し、それをtgマウスモデルで測定できる可能性が示された。 これらの事実は今後tgマウスモデルでEV71の神経病原性発現機構の分子基盤を明らかにするために必須の重要事項であるが、当初の予想通りの結果を得られているので順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Tgマウスモデルで決定した病原性がヒトにおける病原性の強さと相関関係があるかどうかは現在のところ不明である。したがって代表的なウイルス株を用いてマウスでの病原性の強弱を正確に決定し、次にサルモデルを用いて、サルにおけるこれらの株の病原性の強弱を決定する必要がある。tgマウスモデルとサルモデルの結果との間に相関関係があるかどうかを調べる。 相関関係が確認できた場合には、様々な野外分離株をtgマウスに接種することにより強毒性を示す株と弱毒性を示す株を代表的な株として選抜し、逆遺伝学的な方法により、毒力決定基を同定することができると予想している。 また、毒力決定基が同定されれば、その塩基置換によってウイルスゲノムRNAやウイルスタンパク質にどのような違いが生じ、宿主因子との相互作用がどのように変化していくのかを明らかにすることができ、病原性の分子基盤を解明することができると予想している。
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