研究課題/領域番号 |
23390127
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
甲斐 一郎 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (30126023)
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研究分担者 |
鈴木 裕 国際医療福祉大学, 大学病院, 教授 (20241060)
樋口 範雄 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30009857)
会田 薫子 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (40507810)
清水 哲郎 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (70117711)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 終末期医療 / 臨床倫理 / 意思決定プロセス / 家族支援 / 人工的水分・栄養補給法 |
研究概要 |
本研究は、長寿社会における終末期医療の意思決定に際する本人意思の尊重および家族支援に関して、日本の歴史文化・社会的特徴を踏まえたあり方を模索し、具体的な方途を提示することを目的としている。 本研究の2年目である平成24年度は1年目に実施した量的調査の分析を進めた。ある地域の家族介護者(n=1101)を対象とする調査において、要介護者の食事の摂取方法は、「自立」が41%、「一部介助が必要」が44%、全介助が必要なもののうち、「経口摂取のみ」は9%、「胃ろうを利用」しているものは4%となっていた。これらの食事方法が介護負担感に与える影響について、要介護者のその他のADLや介護の状況などを調整した一般化線形モデルを用いて分析を行ったところ、食事に一部介助が必要な場合に最も介護負担感を悪化させる一方で、胃ろう栄養法を用いている場合には介護負担感が有意に低くなっていた。 また、看取りとその準備に関しては、「要介護者本人と相談したことがある」という介護者は14%で、「相談したことはなく、相談する予定もない」という介護者は67%であった。また、在宅での看取りの実現のために必要であるとされたのは、要介護高齢者の身体状態が悪化した場合や臨終に近くなった場合の「地域における24時間診療体制や、緊急時の医師や看護師の訪問」であった。家族介護者が不安を抱えているのは、要介護者の容体悪化等の緊急時の対応であり、在宅での看取りを希望していても、これが実現されないと安心できず、看取り時は病院や施設等にゆだねたいと家族が思うようになることが示唆された。次いで、事前にケアマネジャーやかかりつけ医、デイケア等通所施設スタッフと家族が連絡を取り合っておくことや、専門家同士で情報の共有を行う必要性が指摘された。また、「看取りに向けた情報支援」の必要性が報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定の2つの調査を初年度の平成23年度中に実施し、平成23年度内に調査1の分析をある程度進め、平成24年度には調査2の分析を進めた。 調査1では、療養病床の高齢入院患者における経管栄養法(胃ろうあるいは経鼻経管による)の施行実態に関して、療養病床の勤務医968名を対象として郵送無記名自記式質問紙調査を実施した。この調査では、当研究班が平成19年度に同様の集団を対象に実施した調査の質問項目と同一の項目も含めた。その結果、アルツハイマー末期で摂食困難な患者に対する経管栄養法の施行に関して、この4年間で医師の意識変化がみられることが示唆され、胃ろう栄養法等の経管栄養法を選択する医師が有意に減少していることが示された。調査2では、上記の「研究実績の概要」に記載したように、家族介護者を対象に介護負担感等を調べたが、食事に関する項目では、胃ろう栄養法の利用は介護負担感の軽減につながることが統計的に有意に示された。 食事介助と人工的水分・栄養補給法(AHN: artificial hydration and nutrition)に関する諸問題は高齢者介護と終末期医療における重大問題の1つであり、日本社会の現在の環境における家族介護では、本人のQOLと家族の介護負担感のバランスを取ることも検討課題である。 研究のまとめである平成25年度は、この問題を含め、高齢者の終末期医療とケアに関して、これまでに得られた知見を踏まえて、日本の社会的文化的背景に合った意思決定プロセスの構築と実証につなぐことを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
本研究班が実施した調査結果の分析を詳細に進める。調査1は平成19年度の調査結果とさらに比較分析を進め、家族介護者が抱える問題との考察も進める。 それらの知見を踏まえ、日本の社会的文化的背景に合った意思決定プロセスのモデルを構築し、老人看護専門看護師等の臨床現場の医療者らの協力を得て検証する。 これらの知見を総合して執筆した患者・家族用の意思決定支援ツールの出版をめざし、それと並行して、医療・介護従事者対象の臨床倫理セミナーや一般市民対象の講演会を開催し、研究成果を発信するとともに、それに対する意見を研究班員のホームページにて発信する
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