研究課題/領域番号 |
23390140
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝司 徳島大学, 大学院・ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (00184656)
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研究分担者 |
広川 貴次 産業技術総合研究所, 生命情報工学研究センター, チーム長 (20357867)
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キーワード | ドラッグデリバリー / リソソーム病 / 組換えカイコ / ケミカルシャペロン / 酵素補充療法 |
研究概要 |
リソソーム内で複合体を構成するヒト・カテプシンA(CathA)とノイラミニダーゼ1(NEU1)の各々の遺伝子変異が原因で発症する遺伝性リソソーム病の新規治療薬を開発する目的で研究を進めた。活性型CathAを大量発現するトラスジェニック(Tg)カイコの作製に成功し、中部絹糸腺(1万頭分)から、約0.2gの成熟型CathAを精製する方法を確立した。また中性及び酸性pH条件下で成熟型CathAを結晶化し、各々のX線結晶構造を世界初で解明した。さらに精製CathAと細胞膜透過性ペプチドの一種(Arg)_8とのコンジュゲートをCathA/NEU1同時欠損症患者由来培養皮膚線維芽細胞に投与すると、細胞内に取り込まれリソソームまで到達し、両酵素活性を回復させるとともに、蓄積する末端シアル酸含有糖鎖を分解した。これらの治療効果からTgカイコ由来CathAを用いる新規酵素補充療法の開発への応用が期待された。 NEU1は、細胞質性ノイラミニダーゼ2(NEU2)との相同性と構造類似性を示す。NEU2の結晶構造を基にNEU1モデルを構築し、各種阻害剤との相互作用の分子計算科学的解析によりNEU1モデルの妥当性を予測した。また低分子化合物ライブラリーからNEU2の活性ポケットに結合し得る化合物のin silicoスクリーニングを行い、in vitro(酸性pH条件下)でNEU2活性を安定化する化合物を見出した。本化合物は、リソソーム内でNEU1活性も増強する可能性が示唆された。 センダイウイルスベクターを用いてYamanaka因子をCathA欠損症患者由来皮膚線維芽細胞内に導入しiPS様細胞株の樹立に成功し、アルカリフォスファターゼ発現等の未分化性を明らかにした。今後、多分化能を検証できれば、従来臨床検体として利用できなかった患者由来神経系細胞への誘導が可能になり、治療薬の有効性・安全性の新規評価系として利用できると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
組換えヒトカテプシンA(CathA)の新規生産基材として組換えカイコの作製に成功し、カイコ1万頭から0.29以上のCathAを精製できる方法を確立した。またCathAへの付加糖鎖が低抗原性のヒト型N-グリカン部分構造をもち、細胞膜透過性ペプチド(Arg)8とのコンジュゲートがCathA欠損症患者由来線維芽細胞に対する補充治療効果を示すこと、さらに世界に先駆けて活性型CathAのX線結晶構造を解明することができた。さらにセンダイウイルスベクターを用いてYamanaka因子をCathA欠損症患者由来線維芽細胞に導入し、患者由来iPS細胞株の樹立に成功し、新規治療薬候補である組換えカイコ由来CathAやNEU1活性増強化合物の有効性・安全性に関する新規評価システムとしての応用が期待された。
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今後の研究の推進方策 |
1)組換えカイコの中部絹糸腺由来のヒト活性型CathAは、酸性pH条件下で熱安定性を示すが、中性pHでは速やかに失活する。CathAの活性ポケットに結合する基質アナログまたは阻害剤のin silicoスクリーニングを行い、CathAに対しケミカルシャペロン活性を示す化合物(酵素増強化合物)を見出す。 2)組換えカイコの中部絹糸腺由来のヒト活性型CathAには、ヒト型N-グリカンの部分構造をもつ低抗原性の糖鎖が付加されるが、ヒト組織細胞表面に存在するデリバリー標的としてのマンノースー6-リン酸(M6P)レセプターにより認識されるM6P残基は付加されない。今後哺乳類細胞内でリソソーム酵素糖鎖へのM6P付加に関わる糖転移酵素遺伝子の利用等、カイコ由来CathAの糖鎖へのM6P付加法を開発する。
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