研究課題/領域番号 |
23390140
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝司 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (00184656)
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研究分担者 |
広川 貴次 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (20357867)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリー / リソソーム病 / 組換えカイコ / ケミカルシャペロン / 酵素補充療法 |
研究概要 |
リソソーム内で複合体を構成するヒト・カテプシンA(CathA)とノイラミニダーゼ1(NEU1)の遺伝的欠損症(リソソーム病)に対し、両者の相互作用部位をターゲットとした新規治療薬を開発する目的で研究を進めた。活性型CathAを大量発現するトラスジェニック(Tg)カイコの中部絹糸腺から精製した成熟型CathAは、ESI-MS/MS解析によりヒトと類似したN型糖鎖を2本もつことを明らかにした。またN型糖鎖の転移反応を触媒する改変型endoM酵素と鶏卵由来の末端シアル酸含有糖鎖のオキサゾリン誘導体を用い、成熟型 CathAに付加された高マンノースN型糖鎖との部分的挿げ替えに成功した。昨年度報告したCathA欠損症患者由来皮膚線維芽細胞に対し補充効果(有効性)を示すTgカイコ由来CathAは、同欠損症に対する低抗原性酵素補充療法として応用可能と考えられた。 NEU1はCathAとの複合体形成により活性化されると考えられているが、そのメカニズムについては不明である。今年度は、NEU1と構造類似性を示す細胞質性ノイラミニダーゼ2(NEU2)の結晶構造を基に、分子計算科学的解析によりNEU1モデルを改良した。また天然物のSiastatin Bが、in vitro(酸性pH条件下)で組換えNEU2に対する阻害作用と安定化作用を併せもつことを明らかにした。Siastatin Bの誘導体が、リソソーム内でNEU1活性も増強する可能性が示唆された。 昨年度、センダイウイルスベクターを用いてYamanaka因子をCathA欠損症患者由来皮膚線維芽細胞に導入することによりiPS様細胞株の樹立に成功し、内因性のOct3/4などの発現を指標にした未分化性とテラトーマ形成能などの多分化能を検証した。さらに生検検体として利用できない患者由来神経系細胞への分化誘導を試み、神経前駆細胞への分化条件を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
日本人種に多いカテプシンA(CathA)欠損症に対する新規酵素補充療法の開発において、組換えヒトCathA発現カイコ系統を樹立し、カイコ1千頭から14 mg以上の高純度の活性型CathAを収率20%で精製する方法を確立した。またカイコ絹糸腺由来活性型CathAにはヒトと類似した高マンノースN型糖鎖が付加されることが明らかにし、糖鎖挿げ替え技術と組み合わせることにより、CathA欠損症患者に対する低抗原性酵素補充治療法の開発が期待された。さらに世界に先駆けてCathA欠損症患者由来iPS細胞株を樹立し、患者の生検検体として入手不可能な神経系細胞への分化誘導に成功した。またNEU1との構造類似性を示す組換えヒトNEU2に対し、酸性pH条件下で安定化作用を示す化合物としてSiastatin Bを発見し、リソソーム性のNEU1に対しても活性増強化合物として応用できる可能性が示唆されたため。
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今後の研究の推進方策 |
1) 今年度、組換えカイコ由来のヒト活性型CathAは、活性ポケット付近の疎水性に基づき酸性pH条件下でも熱不安定性を示すことが明らかになったため、CathAの基質アナログからCathAに対するシャペロン活性を示す化合物(酵素増強化合物)を探索する。 2) 組換えカイコの中部絹糸腺由来のヒト活性型CathAに付加されるN型糖鎖には、ヒト組織細胞表面に存在するデリバリー標的であるマンノース-6-リン酸(M6P)レセプターとの結合能をもつM6P残基は付加されていない。今後は、M6P含有人工高マンノース型糖鎖の作製と糖鎖挿げ替え反応を利用したカイコ由来精製CathAへのM6P付加法を開発する。また引き続き、カイコ絹糸腺においてM6P付加に関わる糖転移酵素遺伝子の導入・発現を検討し、M6P含有ヒトCathAの作製法を開発する。 3) NEU2に対しin vitro・酸性pH条件下で安定化効果を示す低分子化合物としてSiastatinBが同定されたため、今後はSiastatinBの各種誘導体をin silicoでデザインするとともに合成・入手を検討し、NEU2のみならず、細胞内のNEU1に対するシャペロン機能をもつ化合物のスクリーニングを行う。
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