研究概要 |
アトピー性皮膚炎などの痒みは抗ヒスタミン薬に抵抗する難治性そう痒である。プロテアーゼとPAR2プロテアーゼ活性化受容体が,histmmineよりも広範なそう痒性疾患の痒みに関与することが明らかになりつつある。本研究では,様々な痒みの動物モデルを用い,プロテアーゼとPAR2受容体の関与の有無を明確にし,その作用機序の解明ならびに治療に有用な非ペプチド性PAR2受容体拮抗薬の設計・合成を目的としている。本年度は,3種類のそう痒性疾患の痒みのモデルと起痒因子誘発の痒みのモデルにおけるPAR2受容体の関与を調べた。また,非ペプチド性PAR2受容体拮抗薬の合成の試みを行った。自然発症アトピー性皮膚炎,蚊アレルギー及び皮膚糸状菌症の痒みモデル及びガストリン放出ペプチド誘発の痒みのモデルにおいて,ペプチド性PAR2受容体拮抗薬あるいはPAR2中和抗体により,痒み反応が抑制された。自然発症アトピー性皮膚炎および蚊アレルギーの痒み反応に関与するセリンプロテアーゼが,マスト細胞に加え,T細胞から遊離されることを見出した。皮膚糸状菌のモデルでは,皮膚糸状菌から遊離されるケラチナーゼが痒みに関与する可能性を明らかにした。ガストリン放出ペプチド誘発痒みモデルにおいては,マスト細胞からのセリンプロテアーゼの遊離が関与することを明らかにした。一方,アスパラギン酸プロテアーゼのcathepsinEが痒み反応を誘発すること,またその反応にはPAR2受容体が関与せずendothelin-1の活性化(成熟ペプチドの産生)が関与することを見出した。これまで,ペプチド性PAR2受容体拮抗薬を用いてきたが,拮抗薬の安定性等を考慮するために,特許情報を基に数種の非ペプチド性PAR2受容体拮抗薬の合成を試みた。 現在,その効果を検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原因と性質が異なる痒みの動物モデルを用いて,PAR2受容体の関与する系と関与せず前駆タンパクのプロセッシングを介して痒み誘発に関与する系が存在することを見出した。今回,使用した痒みのモデルの多くがPAR2受容体を介していることから,その拮抗薬(特に現在開発中の非ペプチド性PAR2拮抗薬)が新規鎮痒薬になる可能性が期待される。また,これまでマスト細胞から放出されるプロテアーゼが痒みに関与することが報告されているが,免疫系細胞の一つであるT細胞も重要な痒み関連プロテアーゼの産生・遊離に関与することも新たに見出した。このように,本研究において多くの新知見を示してきたことから順調に研究が進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度調べた痒みのモデル系に加え,histamine依存性(受身皮膚アナフィラキシーマウスモデル)と非依存性(黄色ブドウ球菌抽出物感染マウスモデル,oxazolone誘発遅発性皮膚炎マウスモデル,乾燥性皮膚そう痒症マウスモデル)の痒みのマウスモデルを用いて痒みへのプロテアーゼとPAR2受容体の関与と産生細胞を調べる。さらに,痒み関連プロテアーゼの同定を試みる。今年度合成した非ペプチド性PAR2拮抗薬の薬効評価をin vivo及びin vitroの解析系を利用し,鎮痒薬の候補化合物を見出す。
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