研究課題/領域番号 |
23390153
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
倉石 泰 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (80111970)
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研究分担者 |
豊岡 尚樹 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (10217565)
安東 嗣修 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (50333498)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 痒み / プロテアーゼ / PAR2受容体 / 胆汁うっ滞 / 乾皮症 / 掻破 |
研究概要 |
痒みは耐え難い感覚であり,痒みによる皮膚の掻破により皮膚炎の誘発や更なる悪化を招くことから,痒みの抑制は皮膚疾患の治療にとって重要な位置を占める。急性蕁麻疹による痒みには,第一選択薬であるH1ヒスタミン受容体遮断薬が奏効するが,アトピー性皮膚炎などの多くのそう痒性疾患の痒みは,H1ヒスタミン受容体遮断薬では抑制できない場合が多く,これらは難治性そう痒と呼ばれる。難治性そう痒に広く関与する内因性痒み因子とその受容体が明らかになれば,H1ヒスタミン受容体遮断薬に代わる痒みの第一選択薬の開発に繋がることが期待される。近年,マスト細胞が関与する痒みにもプロテアーゼとプロテイナーゼ活性化受容体2(PAR2)が関与することが示されてきた。そこで,本研究は,様々な痒みの動物モデルを用いて,プロテアーゼとPAR2受容体が関与する痒みを明確にすることを目的とした。昨年度は,アトピー性皮膚炎,蚊アレルギー,皮膚糸状菌症のマウスモデル,並びにガストリン放出ペプチドで誘発される掻痒のマウスモデルを用いて,これらの痒み反応にプロテアーゼとPAR2受容体が関与することを明らかにした。本年度は,乾燥性皮膚掻痒症のマウスモデルを用いて,この痒みにもプロテアーゼとPAR2受容体が関与することを見出した。さらに,外科的処置により胆汁うっ滞性肝障害の痒みのマウスモデルを作出することに成功し,この痒み反応にもプロテアーゼとPAR2受容体が関与することを明らかにした。現在,受け身皮膚アナフィラキシーの痒みのマウスモデルの痒み反応へのプロテアーゼとPAR2受容体の関与の解析を継続的に進めている。更に,非ペプチド性PAR2受容体拮抗薬の合成とそのスクリーニング系の確立を進めており,前述のPAR2活性化が痒みに関係する痒みのモデルを用いて,それぞれの痒みの原因となるプロテアーゼの同定を継続的に進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,H1ヒスタミン受容体遮断薬が奏功しない難治性そう痒にプロテアーゼとプロテイナーゼ活性化受容体2(PAR2)受容体が関与するか否かを明らかにすることである。その目的達成のため,過去に我々が作出してきたそう痒性疾患の痒みのマウスモデルを用いてプロテアーゼとPAR2受容体の関与を解析するだけでなく,難治性そう痒の痒みのマウスモデルを新たに作出して,プロテアーゼとPAR2受容体の関与を解析してきた。 これまでの研究により,アトピー性皮膚炎,蚊アレルギー,皮膚糸状菌症,乾燥性皮そう痒症,胆汁うっ滞性肝障害の痒みと,研究開始時には予想していなかった以上に広範囲のそう痒性疾患の痒みにプロテアーゼとPAR2受容体が関与する可能性を明らかにすることができた。 痒みに関与するプロテアーゼはそう痒性疾患により異なるようであり,プロテアーゼを鎮痒薬開発の標的とすることは得策でないと考えられるが,痒みに関与する様々なプロテアーゼが共通してPAR2受容体の刺激を介して痒みを引き起こしている可能性が高いことから,PAR2受容体は,H1ヒスタミン受容体遮断薬に代わる新規鎮痒薬の開発の標的として重要であると考えられる。 本研究の主目的である様々なそう痒性疾患の痒みへのPAR2受容体の関与を明らかにすることができており,研究は順調に進んでいると評価できると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
プロテアーゼとプロテイナーゼ活性化受容体2(PAR2)が関与するそう痒性疾患と関与しないそう痒性疾患を明確にするために,難治性そう痒の痒みのモデルとして,接触皮膚炎の遅発性痒みと慢性腎不全の痒みのマウスモデルを用いてプロテアーゼとPAR2受容体の関与を解析し,ヒスタミンの関与が知られる受け身皮膚アナフィラキシーの痒みへのプロテアーゼとPAR2受容体の関与も検討する。 そう痒性疾患により痒みに関与するプロテアーゼが異なることから,プロテアーゼは新規鎮痒薬の開発の標的としては適切でないと考えられるが,痒みに関与するプロテアーゼの同定と,その産生・遊離細胞の同定をそう痒性疾患ごとに行うことは,そう痒性疾患の痒みの発生機序の理解と,痒みの治療法(例えば,内服と外用のどちらが良いか)を考える上で重要である。そこで,PAR2受容体を活性化して内因性の痒み因子として働くプロテアーゼの同定と皮膚内分布を検討する。 PAR2受容体はTRPV1チャネルの活性化を介して一次求心線維を興奮させることが知られている。TRPV1阻害薬は鎮痛薬としての開発がなされたが侵害性熱刺激を感知できなくなる問題から医薬品としての適応は困難である。侵害性冷刺激の感知に関わる可能性のあるTRPA1チャネルがPAR2受容体刺激による反応に関与するとTRPA1阻害薬もPAR2受容体が関与するそう痒性疾患の痒みに有効である可能性がある。そこで,非ペプチド性PAR2受容体拮抗薬に加え,TRPA1チャネル阻害薬の新規合成と有効性の評価を行う。
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