研究課題
1.C57BL/6マウスに酸化ストレスを誘導することが報告されている無機ヒ素(亜ヒ酸ナトリウム50ppm)またはメチル欠乏食を1または3週間投与し、酸化ストレス、酸化的DNA損傷、およびDNAメチル化変化の関係を検討した。(1)雄マウスの肝臓ではメチル欠乏食によって酸化ストレス誘導性遺伝子が強く誘導され、ヒ素では誘導がみられなかった。酸化的DNA損傷である8-OHdGのHPLC/ECD法による測定でも、メチル欠乏食でのみ増加が検出され、ヒ素曝露と比較してメチル欠乏食では肝臓に酸化ストレスが強くかかり酸化的DNA損傷が増加することが示唆された。(2)5-methylcytosineのLC/ESI-MS測定の結果、メチル欠乏食群でのみグローバルDNAメチル化レベルの低下が観察され、さらに8OH-dG量とDNA低メチル化が有意に相関することが明らかとなった。(3)DNA損傷修復酵素に関しては、メチル欠乏食によってOGG1,MUTYH,TDGの発現誘導が観察され、損傷修復系の活性化がDNAメチル化低下につながる可能性が考えられた。TDGは近年能動的脱メチル化に関与することが報告されており、メチル欠乏食によるDNA低メチル化の機序として、能動的脱メチル化の関与についてさらに検討が必要と考えられた。(4)DNAメチル化を担当するDnmt酵素については、メチル欠乏食によってDnmt1とDnmt3aの発現はむしろ増加しており、酸化的DNA損傷によるDnmtの活性抑制の関与が示唆された。(5)雌ではメチル欠乏食によるグローバルDNAメチル化低下とDNA損傷修復酵素の誘導の程度が雄と比較して弱く、能動的脱メチル化経路の活性化が弱いことがDNAメチル化低下耐性に関与する可能性が考えられた。以上より、酸化的DNA損傷とDNAメチル化変化が密接に関連することが明らかとなった。2.gpt deltaマウスに無機ヒ素を投与し、肝臓での点突然変異の頻度および変異パターンを解析した。その結果、変異誘導能は高くないものの、酸化的DNA損傷に伴って現れる変異の増加が検出され、この実験系によってヒ素による酸化的DNA損傷が高感度に検出される可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
マウスの系において酸化ストレス、酸化的DNA損傷、およびDNAメチル化変化が密接に関連することを示す実験系を確立し、当初の予定通り相互の関連を検討し、新たな知見を見いだした。
昨年度の結果から、メチル欠乏食を投与したマウスの肝臓において、酸化ストレスを起点とするDNA低メチル化の新たな機序として、能動的脱メチル化の関与が重要であることが示唆された。そこで本年度は能動的脱メチル化経路にも注目して検討を行う。本年度は、低メチル食投与による能動的脱メチル化関連酵素の発現や脱メチル化の中間体である5-hydroxymethocytosineの測定、ヒストン修飾変化、および昨年度の検討で低メチル食によって発現変動することが観察されたDNAメチル基転移酵素やDNA損傷修復酵素、および転写因子の相互作用について検討する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (12件)
Arch.Toxicol.
巻: 85 ページ: 653-661