研究課題/領域番号 |
23390167
|
研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
平野 靖史郎 独立行政法人国立環境研究所, 環境リスク研究センター, 室長 (20150162)
|
研究分担者 |
小林 弥生 独立行政法人国立環境研究所, その他部局等, 研究員 (00391102)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ヒ素 / タンパク質 / キャラクタリゼーション / 電気泳動 / 遺伝子導入 / 細胞 / 毒性 / Promyelocytic leukemia |
研究概要 |
CHO-K1細胞、ならびにC端にDDKタグがPML(variant 5)とともに安定に発現しているCHO-K1細胞(CHO-PML)を用いた。CHO-PMLは、リポフェクタミン(LTX)でPML遺伝子を導入した後、G418耐性細胞を選択し、PMLの発現は、ウェスタンブロット法を用いて調べた。また、細胞質と核におけるPMLの存在割合を調べるため、NE-PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents (Pierce)を用いてタンパクを抽出した後、ウェスタンブロット法を用いて各分画のPML量を調べた。 CHO-K1細胞、あるいはCHO-PML細胞に、0.5mM のBSOの存在、非存在下で亜ヒ酸(iAs3+)を最終濃度0-300 μMで添加し、24時間後の細胞生存率をWST-8法を用いて調べた。 また、これらの細胞を10 μMのiAs3+に1-8時間暴露し、細胞層をHBSSで洗浄した後湿式灰化して、細胞に取込まれたヒ素の量をICP-MSを用いて定量した。一方、CHO-PML細胞を、3 μMあるいは30 μMのiAs3+に2時間暴露してPMLの免疫染色に供した。細胞を固定後、0.1%のTriton X-100で処理し、抗PML抗体、蛍光標識2次抗体で細胞を染色し、核をDAPIで対比染色した。PMLは、CHO-PML細胞においてもウェスタンブロット膜上に幾つかの異なる分子量のタンパクとして発現していた。 また、タンパク質重量当たりでは細胞質より核に多く存在していることが確認されたが、免疫染色を施した細胞の蛍光顕微鏡を用いた観察においてもこのことが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内外のヒ素に特化した学会発表に加え、海外誌に論文発表し高い評価を受けている。また、毒性関連の学会でも極めて注目を集めている。 ヒ素に結合するタンパク質を調べる過程において、Promyelocytic Leukemia (PML)に存在するRING finger domainにシステイン残基が多く存在し、極めて強くヒ素と反応することを見いだし、PML分子とヒ素との反応性という観点から、非常に興味深い結論を導き出しつつある。 これは、毒性学的見地から重要な発見であり、細胞内に取り込まれたヒ素の毒性発現機構を解明する上で鍵となるものと考えられる。 また、細胞内のグルタチオンをbuthionine sulfoximineを用いて低下させた細胞を用いてヒ素の細胞毒性に関して研究を進めた点は、副次的成果ではあるが、ヒ素結合タンパク質のシステイン残基とグルタチオンのシステイン残基との競合反応を調べる上で重要な知見が得られたものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
Promyelocytic lukemia (PML)には、RING(Really Interesting New Gene) finger, B box, coiled-coilからなるRBCCモチーフが存在するが、RING fingerドメインには多くのシステインが互いに近傍となるように存在しており、ヒ素と結合のではないかとランが得られている。PMLを強制発現させた細胞では、三価の無機ヒ素がPMLに捕捉されるため細胞毒性が低くなることも予想されることから、今後の研究ではPMLの発現がiAs3+に対する感受性をどのように変調させるかどうかを明らかにする。また、三価の無機ヒ素に暴露した細胞では、PMLがより限局的に核内の小体に存在することが分かったが、三価の無機ヒ素のPMLへの結合が、PMLの核内移行と小体形成に及ぼす影響についてはさらに詳細に調べ、ヒ素の細胞内動態を明らかにする必要がある。 ユビキチン用のタンパク質であるSUMOにより、ヒ素を曝露した細胞においてPMLが修飾を受けることも報告されていることから、ヒ素を結合したPMLがどのような機構でSUMO化されるのかについても詳細に調べる予定である。これらのことより、ヒ素結合タンパク質の詳細なキャラクタリゼーションが可能になるものと期待される。
|