研究課題/領域番号 |
23390178
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡村 智教 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (00324567)
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研究分担者 |
宮本 恵宏 独立行政法人国立循環器病研究センター, その他部局等, その他 (10312224)
東山 綾 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (20533003)
西脇 祐司 東邦大学, 医学部, 教授 (40237764)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 疫学調査 / 血中可溶型LOX-1 / ApoB含有LOX-1リガンド / 動脈硬化 / 腎機能 / CAVI |
研究概要 |
前年度の日米集団でのLOX-1、LABの頸動脈超音波検査との関連の検討に引き続いて、今年度は、40~74歳の神戸市民を対象として、がん・循環器疾患の既往歴なし、高血圧・糖尿病・高脂血症の服薬治療歴なしの条件を満たす1134人のLOX-1とLABの測定を行った。男性のLAB(μg/ml)は22.8、女性は23.1で性差はなく、sLOX-1(pg/ml)は118、125で女性のほうが高かった(それぞれ年齢調整幾何平均値)。LABは肥満群で高いが、sLOX-1は肥満と関連がなかった。男性では喫煙者でsLOX-1が高く、飲酒者で低い傾向を認めた。動脈硬化学会ガイドライン2012の絶対リスク分類別に見ると、LABはハイリスクグループで高くなる傾向を示したが、sLOX-1とは関連を認めなかった。性・年齢・BMIで調整した重回帰分析において、LOX-1、LAB、LOX-indexのいずれも腎機能の指標であるシスタチンCと有意な正の関連を認めた(LOX-1:p<0.01, LAB:p=0.01, LOX-index: Lox-1*LAB:p<0.001)。また新しい動脈硬化指標であるCAVI(cardio ankle vascular index)をアウトカム指標にすると、重回帰分析でLABの自然対数はCAVIと有意な正の関連を示した(標準化係数0.071、p=0.038、R2=0.417)。この結果は、LDLコレステロール値を調整しても同様であった。一方、LOX-1とCAVIとの関連は明らかではなかった。健康度の高い都市部一般住民において、LABが腎機能の低下やCAVIの上昇と関連する可能性が示唆された。また他の地域(群馬県や長野県、滋賀県、大阪府)においてのLOX-1とLABの測定に向けた準備を行い、検体を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日米比較研究、都市地域における血中可溶型LOX-1とApoB含有LOX-1リガンドの測定、それらと頸動脈超音波検査、CAVI (cardio ankle vascular index)、腎機能などのアウトカム指標との関連の検証は順調に進んでいる。また他地域でも検体収集と測定の準備が進んでいる。また日本疫学会総会で関連する演題を4題発表した。ただし日米比較研究の論文は現在リバイズ中であり、まだ公表に至っていない点が唯一の遅れである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の特徴は、米国白人集団も含む複数の集団において新しいバイオマーカーである可溶型LOX-1とLABを測定し、大動脈の進展性、腎機能、頸動脈所見など様々なアウトカムとの関連を生活習慣の影響を考慮した上で検証できる点にある。本研究の成果を公衆衛生的な視点での予防対策につなげるためには、本研究に含まれる一連のアウトカムとの関連が、通常のLDLコレステロールに上乗せして認められるかどうかが重要である。今後、明らかにできる内容としては、1)LOX-1系指標は大動脈の進展性障害(CAVIの高値)と関連を示しその影響は通常のLDLコレステロールよりも大きい。2)LOX-1系指標は高齢者の認知機能やADLの低下と関連するが、通常のLDLコレステロールはむしろADLの維持と関連し、LOX-1系とLDLの比が高齢者の健康指標のマーカーになる。3)米国白人のLOX-1系指標は日本人よりも高く動脈硬化性疾患の日米差の要因の一つである。4)日米のそれぞれの集団においてLOX-1系指標は、頸動脈内膜中膜複合体と関連を示しその影響は通常のLDLコレステロールよりも大きい。5) LOX-1系は腎障害と関連する。6)魚介類や緑黄色野菜の摂取不足、喫煙、内臓肥満などがLOX-1系指標の高値と関連する。以上の検証により、動脈硬化から認知機能までの幅広いアウトカムに対してLOX-1系指標の影響を明らかにでき、また関連する生活習慣の検証によりLOX-1系指標の改善指針を示すことも可能である。
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