研究課題/領域番号 |
23390184
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
玉木 敬二 京都大学, 医学研究科, 教授 (90217175)
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研究分担者 |
鶴山 竜昭 京都大学, 医学研究科, 准教授 (00303842)
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キーワード | DNA多型 / 混合試料 / STR |
研究概要 |
今年度は、実際の混合試料におけるマルチプレックスSTRシステムの識別力の検討をおこなった。血縁関係のない20人のDNA溶液を、吸光度法で0.1ng/μl程度の濃度に希釈した後、Quantifilerキットにて濃度の精度を高めた。これらの資料について、2人の濃度比を9:1から等量比まで段階的に混合したものを試料とした。マルチプレックスSTRシステムとしてアイデンティファイラー・キットを用いて、これらの試料のタイピングを行い、検出されたエレクトロフェログラムのピーク値を測定した。ピーク値の変化はヘテロ接合体の2つのピークバランス(Hb)を算出して検討した。その結果、混合試料だけでなく、対照試料として用いた1個人試料においてもHbが国際法遺伝学会が示す基準を外れる場合があることがわかった。また、混合試料における含有DNA量の少ない方の関与者(mc)のDNA量が減少するに従い、Hbは基準値(0.6~1.66)を外れる傾向にあることが明きらかとなったので、アリルピーク値を利用した混合試料の関与者の判別法(定量法)は、アイデンティファイラー検査では信頼性に疑問があると考えられた。このため、ピーク値を考慮せず、関与人数を設定して検出されたアリルの数だけから想定されるあらゆる遺伝子型の組み合わせを考慮する方法(定性法)の有用性を検討した。プログラムRによって、混合試料における関与者の有無の尤度比(LR)算出プログラムを作成し、1万例についてシミュレーションを行った。その結果、LRの最低値が2人混合試料の場合で2.01x10^9、3人の場合でも37500となり、刑事事件で尤度比の解釈のひとつの基準値といえる1000を遥かに超える値が得られたので、定性法であっても、2人または3人の場合であれば、関与者の推定に極めて有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初の研究計画であるアイデンティファイラー検査による混合試料判定実験において、予想に反するHb外れ値が多発したため、実験精度の検証を繰り返し行った。その結果、実験精度の問題ではなく、システムそのものの揺らぎであることがわかったため、実験計画の変更が必要となった。しかし、シミュレーションによる定量法の有効性が示唆されたため、論文作成ができるデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
混合試料分析におけるアリルピーク高の定量的解析と定性的解析の比較において、まず、定性的解釈の有効性を検討したが、アイデンティファイラー検査においては、予想以上に高い尤度比が得られることがわかった。したがって、定量法だけを選択する必要はなく、むしろ控えめであっても再現性のよい定性法による実験を継続する。また、アイデンティファイラー検査による微量試料分析が、最も喫緊に解決すべき課題であるため、DNA量を減らした時に発生するStochastic Effect(SE)の閾値設定を次のが実験計画として挙げている。このため、ます、測定機器の感度である閾値(PAT)が揺らぎのない一定値を保ち続けることを確認した後、微量DNA実験を進める予定である。
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