これまで15STRローカスのタイピングキットであるアイデンティファイラー検査によるDNA検査の混合試料における有用性を判断するため、既知のDNA試料を何度もタイピングして、ヘテロ接合型の2つのアリルのピークバランスを検討したり、混合試料の関与者の一人の型が既知の場合(例えば被害者の型)などにおける混合試料において、被疑者の型が含まれると判断できるか、被疑者の第1度血縁の非関与者の誤判定について検討を行ってきた。今年度はこれらの結果をまとめ、信頼性の高い混合試料解析のための前提条件と解析方法を確立した。 前提条件は、4人以上の関与者の解析はアイデンティファイラー検査の識別力の限界を越えるため避けること、全てのアリルはピークと認められている閾値を超えていること、既知の関与者の全てのアリルが混合試料で検出されていること、関与者相互の血縁が高くないこと、である。混合試料のDNAプロファイルがこれらの前提条件を満たしていれば、フローチャートに従って関与人数の組合せが推定できる。具体的には、まず、既知の関与者の数を決め、次に既知の関与者にはないアリルが最も多いローカスの未知の関与者由来のアリル数をとる。そして、最小関与人数とそれより1人足した人数におけるその組合せで混合試料のプロファイルと同じになるような尤度を比較して、高い方を混合試料における関与人数とその組合せとした。 なお、混合試料の関与者の識別力をより高めるため、新たなSTRローカスの日本人頻度を求め、その識別力を検討した。また、研究の過程で、stochastic effect (SE )の起こる閾値を設定するという考えを用いないContinuous system(CS)が発表された。このためドロップ・モデルを利用したソフトウェアによる尤度比計算の信頼性には問題があると判断し、CSの導入を早める研究に計画を変更した。
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