研究課題
本研究では、動脈、静脈に次ぐ第3の脈管系に位置づけられながら、未だその生理学的・病的意義が十分に確立していない「リンパ管システム」に焦点をあて、「リンパ管の機能異常が生活習慣病形成に寄与する」との仮説のもと研究を進めている。これまで、リンパ管内皮細胞に発現しているVEGFR-3(VEGF-C受容体)の変異マウスでは皮下リンパ管が減少し脂肪細胞の過剰蓄積を認めることが示されるなど、リンパ管と生活習慣病結びつける報告が散見される。そこで、平成23年度の研究課題として、肥満や糖尿病モデルマウスにおけるリンパ管の発達に関して検討を行った。モデルマウスとして肥満2型糖尿病モデルであるob/obマウス、db/dbマウス、KKAyマウス、1型糖尿病モデルとしてAkitaマウス(Ins2 Akita)を使用した。マウス膵臓の新鮮凍結切片を作成しリンパ管内皮細胞のマーカーである抗LYVE-1抗体を用いて検討したところ、ob/obマウス、KKAyマウス、AkitaマウスではWTに比べてリンパ管が多く、db/dbマウスでは少なかった。膵島との関連ではob/obマウス、KKAyマウスにおいて特に肥大した縢島の周辺にリンパ管を認めた。この結果は肥満や糖尿病に伴って膵臓におけるリンパ管の発達が明らかに変化することを示している。これらの結果を踏まえ、リンパ管形成異常が代謝性疾患の病態にどのように関わるかを現在検討中である。その手法として、VEGF-C発現抑性作用を有することが近年報告されているCOX2阻害剤やVEGF-C、FoxC2遺伝子ノックアウトマウス等のリンパ管新生に異常を来たすマウスを利用しながら、肥満、糖、脂質代謝やさらには動脈硬化の発症・進展機序にも焦点をあてて研究を進めている。また動脈硬化モデルマウスにおけるリンパ管機能の解析として現在、粥状動脈硬化促進性アポEノックアウトマウス及び野生型マウスに高コレステロール餌を負荷し、粥腫におけるリンパ管の数や分布を検討している。さらにヒトリンパ管内皮細胞機能に対するアディポサイトカインの効果に関しても検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の計画では(1)肥満・糖尿病モデルマウスにおける脂肪、膵臓におけるリンパ管の評価、(2)動脈硬化モデルにおけるリンパ機能の解析、(3)アディポサイトカインによるリンパ管内皮細胞機能変化の解析を目標に掲げた。(1)に関してほぼ結果を揃えることができた。(2)に関しては動脈硬化モデルマウスであるApoEマウスの交配が予定より遅れ解析が遅れたが、交配に関する問題は解決しており漸次進めている。(3)に関しては現在基礎検討としてヒトリンパ管内皮細胞に対するVEGF-Cの効果に関して検討しており、終了後にアディポサイトカインの効果を観察してゆく予定である。
平成23年度の結果により、肥満や糖尿病に伴ってリンパ管の発達に変化が生じることが明らかとなった。そこで平成24年度には、リンパ管の発達変化と肥満、糖、脂質代謝、動脈硬化との直接的な因果関係を探るため、リンパ管形成異常モデルにおける脂肪・膵β細胞機能や動脈硬化に関して解析を予定している。具体的にはVEGF-Cヘテロ欠損マウスやFoxC2ヘテロ欠損マウス等のリンパ管発達に異常をきたすことが既に知られているマウスを用いて、通常食、高脂肪食負荷時における体重、血糖、脂質、血圧の評価、さらに糖負荷試験、インスリン負荷試験を行いインスリン分泌やインスリン感受性を野生型と比較評価する。また、ob/obやdb/dbマウス等と交配し、同様に糖・脂質代謝に及ぼす影響を解析する。さらにそれぞれのヘテロ欠損マウスと粥状動脈硬化促進性アポE欠損マウスと交配し、高脂肪負荷状態にて粥状動脈硬化病変の形態的変化を定量、定性的に評価してゆく。以上のような検討を進めることにより、「リンパ管と生活習慣病」といった、これまでにない視点にもとづいて、生活習慣病の病態生理の解明や新しい診断、治療法の開発に着実につなげてゆきたい。
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