研究課題/領域番号 |
23390185
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
横手 幸太郎 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20312944)
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研究分担者 |
竹本 稔 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60447307)
藤本 昌紀 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (20451742)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生活習慣病 / 肥満 / 糖尿病 / リンパ管 |
研究概要 |
本研究では、動脈、静脈に次ぐ第3の脈管系に位置づけられながら、未だその生理学的・病的意義が十分に確立していない「リンパ管システム」に焦点をあて、「リンパ管の機能異常が生活習慣病形成に寄与する」との仮説のもと研究を進めている。まず、肥満や糖尿病モデルマウスにおけるリンパ管の発達に関して検討を行った。肥満2型糖尿病モデルとしてob/obマウス、db/dbマウス、KKAyマウス、1型糖尿病モデルとしてAkitaマウスを使用した。各モデルマウスにおける膵リンパ管網を、リンパ管内皮細胞のマーカーである抗LYVE-1抗体を用いた免疫染色にて検討したところ、1型のみならず、肥満2型糖尿病モデルマウスの膵臓でもリンパ管が増生していた。この結果は、肥満や糖尿病に伴って膵臓におけるリンパ管の発達が明らかに変化することを示している。特に肥大した膵島の周辺にリンパ管が密着して存在しており、膵島から何らかの因子が、リンパ管新生を促進していることが示唆された。そこで、強力なリンパ管新生促進因子であるVEGF-Cに着目して検討を進めた。単離膵島におけるVEGF-Cの発現をリアルタイムPCRにて解析したところ、ob/obマウスでは野生型に比較してVEGF-Cの発現が約10倍に上昇していた。免疫染色および培養細胞を用いたRT-PCRによる検討では、VEGF-Cは膵α細胞、膵β細胞の両者で発現を認めた。培養膵α細胞、膵β細胞、単離膵島を用いたin vitroの検討において、IL-1βやTNF-αといった、糖尿病や肥満と関連する炎症性因子によりVEGF-C mRNAの発現が誘導され、この発現誘導はNF-κB阻害剤により抑制された。このことより、糖尿病、肥満状態で発現が上昇するTNFαやIL-1βが膵α細胞、膵β細胞でのVEGF-Cの発現を誘導し、膵リンパ管の増生を促していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画では、①肥満・糖尿病モデルマウスにおける脂肪、膵臓におけるリンパ管の評価、機能解析、②動脈硬化モデルにおけるリンパ機能の解析、③アディポサイトカインによるリンパ管内皮細胞機能変化の解析を目標に掲げた。 ①に関しては糖尿病・肥満におけるリンパ管の変化、そのメカニズムに関して結果が揃ってきている。②に関しては動脈硬化モデルマウスであるアポE欠損マウスに高コレステロール負荷を行い、粥状動脈硬化巣を作製しており、近日中に解析結果が得られる予定である。③に関しては糖尿病状態での膵リンパ管の増生に膵島でのVEGF-Cの発現亢進が関与していることが示唆されたため、TNFα、レプチン、アディポネクチンのVEGF-C発現亢進を介したリンパ管新生調節機構を解析した。今後は、これらのアディポサイトカインのリンパ管内皮細胞への直接作用も検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これらの結果をうけ、平成25年度は、この発達した膵リンパ管がどのように病態に関与するのかを解明する。このため、Pdx1-CreマウスとVFGF-C/floxマウスを交配させ、Cre-loxPシステムを用いて、膵臓特異的なVEGF-C欠損マウスを作製する。このマウスに高脂肪餌負荷を行い、体重、血糖、脂質、血圧を測定、さらに糖負荷試験、インスリン負荷試験を行いインスリン分泌やインスリン感受性を野生型と比較する。 また、肥満2型糖尿病モデルであるob/obマウスとの交配を行い、同様の解析を行う。さらに、高発現しているVEGF-Cの膵島機能への直接的な作用を明らかにするため、in vitroにおいて、培養膵α細胞・膵β細胞にVEGF-Cを添加し、グルカゴン・インスリン分泌能、増殖、アポトーシスへの影響を検討する。 さらに、粥状動脈硬化巣に対するリンパ管の機能を明らかにする。このため、粥状動脈硬化促進性アポE欠損マウスに高コレステロール負荷餌負荷を行って粥状動脈硬化を惹起し、粥腫におけるリンパ管網を免疫染色にて同定し、動脈硬化のない野生型の血管と比較し、評価する。また、VEGF-Cヘテロ欠損マウスとアポE欠損マウスとを交配し、高コレステロール餌負荷で生じる粥状動脈硬化病変の形態的変化をオイルレッドO染色、免疫染色にて、定量、定性的に評価する。さらにヒトリンパ管内皮細胞機能に対するアディポサイトカインの効果に関しても検討を進めている。 以上のような検討を進めることにより、「リンパ管と生活習慣病」といった、これまでにない視点にもとづいて 、生活習慣病の病態生理の解明や新しい診断、治療法の開発に着実につなげてゆきたい。
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