研究課題/領域番号 |
23390187
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
里 直行 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (70372612)
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研究分担者 |
林 真一郎 国立循環器病センター, 高血圧・腎臓科, 医師 (20396740)
村山 繁雄 東京都健康長寿医療センター研究所, 高齢者ブレインバンク, 部長 (50183653)
内尾 こずえ 医薬基盤研究所, 生物資源研究部, 研究員 (70373397)
上田 裕紀 大阪大学, 医学系研究科, 特任准教授(常勤) (90543463)
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キーワード | 糖尿病 / アルツハイマー病 / βアミロイド / インスリン・シグナル / タウ / 老人斑 / 神経原線維変化 |
研究概要 |
糖尿病がアルツハイマー病の危険因子であることは多くの疫学的研究により支持されている。しかしながら、その機序に関しては十分に理解されていない。久山町研究では地域住民に対してブドウ糖負荷試験を行い、亡くなられた時に剖検をして(平均10~15年)老人斑の有無を検討したところ、インスリン抵抗性があると老人斑の形成が惹起されることが判明し、報告している。一方でKalariaが2009年に発表したNat rev neurolにおいてはアルツハイマー病患者の剖検脳を糖尿病の有無で病理を検討した結果、糖尿病は老人斑や神経原線維変化を増加させず、血管病変のみ増加させていたと報告している。この一見すると矛盾する結果をどう解釈するか?我々は「糖尿病がアルツハイマー病病態を修飾する機序は老人斑の形成前後で異なる」という仮説を立てた。老人斑の形成前の機序解明のために野生型マウスに高脂肪食負荷をかけ、インスリン抵抗性を惹起させた。3ヶ月の高脂肪食負荷では末梢の高インスリン血症を惹起さいたが、脳内のインスリン濃度は変化しなかった。また、この時の血中および脳内βアミロイド量も変化しなかった。さらに6か月、1年、1年6か月と高脂肪食を負荷する期間を長期にしていく。糖尿病合併アルツハイマー病マウスの検討では、タウの検討を行った。その結果、1年6か月齢では、糖尿病合併アルツハイマー病マウスでは野生型、アルツハイマー病マウス、糖尿病マウスに比し、電気泳動後のタウのバンド・パターンが大きく変化していることを見出した。非常に重要な結果であり、タウのリン酸化の亢進など詳細を検討していく。また、本研究の途上で明らかとなったアルツハイマー病マウスにおける糖負荷後の血中βアミロイドの上昇の知見をヒト臨床研究へと応用した。その結果、非アルツハイマー病患者に比し、アルツハイマー病患者では糖負荷後の変動パターンの違いを見い出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経原線維変化の本体は異常リシ酸化タウである。本年度は高齢の糖尿病合併アルツハイマー病マウスにおいてタウの電気泳動パターンが異なることを見出した。このことはタウのリン酸化の亢進の可能性を示唆しており、糖病病がアルツハイマー病の危険因子である機序に向けての研究が一歩前進したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は糖尿病がアルツハイマー病の発症危険因子である機序を解明し、その機序に基づくアルツハイマー病の予防・治療法の開発である。特に本研究ではインスリン・シグナルの役割に着目している。我々が独自に開発した糖尿病合併アルツハイマー病モデルは脳内のインスリンおよびインスリン・シグナルの低下を示すことを報告している(Takeda, Sato, et al.PNAS, 2010)。本年度の研究により、高齢の同マウス脳においてタウの異常が観察された。今後はこのタウの異常に関して詳細を明らかにし、その異常に至る機序を解明していく。これまでのin vivoの系に加え、in vitroの系を立ち上げ、そのパスウェイを明らかにしていく。すなわちタウの異常へとつながるβアミロイド+未知の因子の検索を行っていく。
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