研究課題/領域番号 |
23390194
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
下瀬川 徹 東北大学, 大学病院, 教授 (90226275)
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研究分担者 |
佐藤 賢一 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), がん幹細胞研究部, 部長 (10282055)
正宗 淳 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90312579)
濱田 晋 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20451560)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | マイクロRNA |
研究概要 |
本年度は浸潤性膵癌特異的に高発現がみられるマイクロRNAについて詳細な解析を行った。昨年度に膵癌細胞株の上皮間葉形質転換(EMT)を促進することが判明したmiR-197について、その標的遺伝子の同定と膵癌細胞の細胞機能に与える影響を検討した結果、以下の知見が得られた。1.データベース解析により、miR-197の標的遺伝子としてE-cadherin結合蛋白であるp120 cateninが同定された。p120 catenin mRNAの3'UTRに存在する配列を導入したレポーターベクターのルシフェラーゼ活性はmiR-197により抑制されることが明らかとなり、p120 cateninはmiR-197の直接の標的遺伝子であることが示された。2.p120 cateninのsiRNAによるノックダウンはmiR-197と同様に膵癌細胞のEMTを誘導し、上皮系マーカーであるE-cadherinの発現低下と間葉系マーカーであるVimentinの発現上昇を来すことが証明された。3.治療用エフェクター細胞によるmiR-197発現抑制を実現するための基礎実験として各種サイトカイン刺激による発現変動の有無を確認したが、miR-197発現を変化させるサイトカインや成長因子の同定は困難であった。miR-197が膵癌細胞の細胞機能に与える他の影響を網羅的に解析するため、miR-197導入による遺伝子発現プロファイルの変化をマイクロアレイにて網羅的に解析した。その結果、多数のミトコンドリア関連蛋白質の発現変動が確認された。ミトコンドリア機能の変化は細胞死の誘導に関連するため、癌細胞の細胞死誘導・癌幹細胞機能の廃絶をもたらすエフェクター細胞作製に際して有用な治療標的になりうると考えられ、以上の結果は有用な基礎データになるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の検討により、癌幹細胞機能の一つであるEMT誘導に関わるマイクロRNA、miR-197の詳細な機能が明らかになった。miR-197はEMT誘導のみならず細胞内代謝への関与も示唆されており、これらを標的とした治療法の開発に有用なデータが得られているため、進捗状況はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
1)間葉系細胞と膵癌細胞株の共培養系を用いて、miR-197導入により発現変化がみられた遺伝子が影響を受けるかを検証する。変化がみられた遺伝子についてはsiRNAによるノックダウン実験を行い、特にミトコンドリアによる細胞内代謝(酸化的リン酸化と解糖系のバランスなど)への影響を評価する。 2)間葉系細胞へmiR-197が与える影響につき、マイクロRNA前駆体を導入して評価を行う。対象となる間葉系細胞としては膵星細胞、骨髄由来MSCなどを用い、分化傾向や細胞機能に変化が生じるかを検討する。 3)上記により同定される因子について、間質系細胞との混合移植により形成されるヌードマウス皮下腫瘍モデル・膵同所移植モデルを用いて腫瘍形成能への関与を検討する。具体的には各種ミトコンドリア関連蛋白の安定ノックダウン細胞株(膵癌細胞株および間質細胞由来)を作成し、腫瘍形成能・遠隔転移形成能や抗癌剤感受性の変化について検討する。 以上の計画により、膵癌細胞の代謝系を正常化させることで癌細胞の細胞死誘導と幹細胞機能の廃絶を実現するエフェクター細胞開発のための基礎検討を行う。
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