我々はこれまでに、肥満した脂肪組織に明確な炎症が生じること、さらに、肥満脂肪組織から分泌が増加する遊離脂肪酸が、血管と膵ランゲルハンス島で炎症を惹起することを明らかにした。これらの結果は、メタボリックシンドロームと、動脈硬化性心血管疾患、糖尿病や慢性腎臓病の発症・進展において、慢性炎症が重大な役割を果たすこと、また、これら臓器は密接に連関しながら、病態が進行することを示唆する。そこで、本研究計画では、臓器連関、特に脂肪と心血管系、腎臓・骨格筋と心臓との連関によって、どのようにして炎症プロセスと臓器機能障害が誘導・進展するのか、その分子機構を検討し、肥満やメタボリックシンドロームで心血管・代謝・腎疾患が発症・進展する分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。同時に、臓器連関と炎症プロセスへの介入による治療法開発のため基盤の確立と、新規検査法への応用を目指した。そのため、(1)遊離脂肪酸による心機能障害と血管病変形成機序の解析(心-脂肪連関)に関しては、肥満脂肪細胞からの放出が増加する遊離脂肪酸、特に飽和脂肪酸の役割に着目した解析を行った。アンジオテンシンII負荷モデル等の心疾患モデルに対して、パルミチン酸の投与を行い、心臓への影響を検討し、炎症シグナルを活性化することを見いだした。(2)心-腎連関による心臓線維化に関しては、腎臓特異的な遺伝子改変マウスを用い、このマウスにおける心臓のフェノタイプ解析を進め、腎臓が心臓での適応応答に必須であることを見いだした。(3)心-骨格筋連関による心不全誘導のメカニズムの解析に関しては、運動負荷による心-骨格筋連関に着目して検討を進めた。
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