研究課題/領域番号 |
23390208
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
室原 豊明 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90299503)
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研究分担者 |
新谷 理 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20309777)
柴田 玲 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師 (70343689)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 再生医療 / 細胞治療 / リンパ管再生 / 血管新生 / 成長因子 / 間葉系幹細胞 / 脂肪組織由来再生細胞 / マクロファージ |
研究概要 |
本研究の目的は、リンパ浮腫の改善を目指した細胞移植による新規のリンパ管再生療法の開発にある。2次性リンパ浮腫の多くは、癌の外科的治療(リンパ節郭清)や放射線治療の合併症として発症する。これらは、患者のQOLの低下をもたらしているが、治療選択肢としては理学療法に限られている。我々はこれまでに、虚血組織における自己脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADRC)移植による虚血組織の血管新生療法について報告してきた。今回動物 (マウス) のリンパ浮腫モデルを作成し、ADRCの移植がリンパ管新生を促進し、2次性リンパ浮腫に対する治療的リンパ管新生療法となりうるか否かを検討した。C57BL/6Jマウスの鼠径部皮下脂肪組織より分離したADRCを培養すると、2週間後に一部リンパ管内皮細胞(LEC)の特性を呈した。また、ADRCから、サイトカインであるVEGF-Cの分泌も確認された。 次に血流遮断を伴わないマウス尾部リンパ浮腫モデルを作成しADRCを移植したところ、2週間後には明らかに浮腫の改善効果が認められた。また組織学的検討でもADRC移植群では、移植部位においてLYVE-1陽性のリンパ管内皮密度が有意に増加していた。移植されたADRCが直接リンパ管内皮細胞へ分化する割合はごくわずかであることがGFP-tgマウス由来のADRCを用いた検討で確認された。このリンパ管新生の増強効果は、パラクライン作用が主要機序と考えられ、移植部組織ではVEGF-CやHGFの発現が増強していた。また、培養実験においてもADRCの培養上清添加によりヒト皮膚由来LECの遊走能および増殖能が亢進し、またeNOSおよびErkのリン酸化が促進することが明らかにされた。以上のように、ADRC移植によるリンパ管再生療法は難治性リンパ浮腫に対する新たな治療戦略となりうる可能性が示唆された。本研究はH24年度に論文化された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった、皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(脂肪組織由来再生細胞: ADRC)を用いたリンパ管再生療法の確率、に関しては、おおむね順調に進展していると判断している。まず(1)血流障害を伴わないマウス尾部リンパ浮腫モデルが構築できたこと。(2)さらにそのモデルを用いて、脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADRC)移植がリンパ管新生を促進して、さらには末梢部位のリンパ浮腫を軽減しうることを証明できた。 しかしながら、その詳細な分子機序や、生体内での効果の持続性など未だ不明な点も多い。また、将来の臨床応用を考えた場合には、マウスよりもより大型の動物モデルを構築し、そのモデルに対して同じようなADRC移植の効果を診る必要性がある。 いずれにしても、当初の本件研究の基本的な目標に対しては、十分に研究が進展していると総合的に自己判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1 マウスモデルでの研究の過程で、新しい機序としてADRC移植がおそらくサイトカインによる作用で、リンパ管内皮前駆細胞と思われる細胞を誘導してリンパ再生につながっている所見が得られている。この細胞は M2マクロファージに似た特性を有しており、今後ADRCがM2マクロファージを動員し、この細胞がリンパ管内皮細胞に分化している可能性もあるため、さらに詳細に検討して行く。 2 今後の臨床への応用を踏まえて、中~大動物のリンパ浮腫モデルを新たに作成して、小型動物と同様に自己脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADRC)移植による治療的リンパ管新生が有効かつ安全であるか否かを検証する。
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