研究概要 |
1996年より集積している遺伝性不整脈症例の詳細な臨床所見と遺伝子検索で得られた遺伝型との比較検討を行った。QT延長症候群のLQT1は、運動時にQT延長が増強し発症する例があり遺伝子型との関連を調べた所、KCNQ1-G269Sのキャリアで、運動負荷に対するQT時間の反応が著しく増強している事を発見した。遺伝子組み換え法と培養細胞を用いたパッチクランプ法により、KCNQ1-G269S変異が再構築する遅延整流カリウム電流はWTに比べて減少している事(Loss-of-function mutation)、運動に伴い活性化するプロテインキナーゼAによる修飾を受けない事が判明し、新しいメカニズムによるQT延長症候群の病態を解明した。Brugada症候群は心臓性突然死を起こす重篤な病気であるが、その分子基盤はナトリウムチャネル遺伝子の変異だけでは十分説明できていなかった。国際共同研究で本症候群のゲノムのGWASを行い新たな修飾因子としてHEY2とSCN10A遺伝子を発見し、Nature Genetics誌に発表した。カテコラミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)は、小児発症の運動に伴う重症不整脈で非常に死亡率の高い病気であるが、その遺伝的背景や日本での頻度など不明な点が多かった。我々は3つのCPVT関連遺伝子(RyR2, CASQ2, KNCNJ2)について50人の臨床診断された発端者で検討した。実に56%にRyR2変異が同定された。また非常に頻度が低いとされるCASQ2とKCNJ2の変異例も一例ずつ発見し報告した。この報告は、NGSの新規の利用方法を提示するものであった。QT延長症候群のうち、LQT8はカルシウムチャネル関連遺伝子の変異により発症するが、自閉症や骨格異常を伴うTimothy症候群とは異なり、QT延長のみを示す患者群にもカルシウム遺伝子異常があることを初めて報告した。
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