研究課題
研究実績の概要本申請研究では、不全心において特徴的に認められる遺伝子発現変化に関わる転写・エピゲノム調節経路の解明を通した慢性心不全の分子病態解明と、それに基づく新規治療標的・戦略の同定・構築を目的とする。本年度は以下の研究を行った。1、転写抑制HDAC-NRSF複合体による心筋遺伝子発現のエピゲノム制御機構の解明とその下流標的の同定に基づく新規心不全・突然死治療法の開発。心筋特異的NRSFコンディショナルノックアウトマウス(NRSF cKO)を作製したところ、NRSF cKOは生後徐々に心拡大、心機能低下を示し、その全個体が突然死した。このことから生後の正常な心機能維持にNRSFが不可欠であることが初めて示された(投稿準備中)。また心筋特異的NRSF,HDAC1,HDAC2ヘテロノックアウトを作製し解析を開始した。加えて、タモキシフェン誘導性心筋特異的NRSFノックストマウスも作製し、その解析を行った。2、Rho依存性転写活性化因子MRTF-Aの病的心筋リモデリングにおける役割の解析とそれに基づく新規心不全予防・治療薬開発。MRTF-Aノックアウトでは心肥大反応が減弱していたことから、心筋におけるRho-MRTF-A-SRF転写経路の標的遺伝子の解析をDNA microarrayにておこない、いくつかの標的遺伝子の候補を見出した。3、病的心筋リモデリングにおけるTRPC6/3イオンチャネル-calcineurin-NFAT転写調節経路を介したシグナルクロストークとその新規治療標的としての意義の解明。TRPC6/3阻害薬が複数の心不全モデル動物の心機能を改善する可能性を見出した。4、心不全発症におけるTRPM2チャネルの治療標的としての意義の解明。アンジオテンシンII投与による心肥大モデルで、TRPM2ノックアウトマウスでは肥大反応が低下していることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定した計画の内、以下のように予定以上の成果を上げている計画がある一方で、一部さらなる進行の余地を残す計画も存在しているが、全体としてはおおむね順調に進行している。1、転写抑制HDAC-NRSF複合体による心筋遺伝子発現のエピゲノム制御機構の解明とその下流標的の同定に基づく新規心不全・突然死治療法の開発、に関してはほぼ予定通り進展しており、興味深い結果を得ている。2、Rho依存性転写活性化因子MRTF-Aの病的心筋リモデリングにおける役割の解析とそれに基づく新規心不全予防・治療薬開発、に関してはMRTF-Aの病的心筋リモデリング予防・治療標的としての意義の確立に関してはほぼ予定通り進行し、さらに血管病の予防治療標的としての意義をも明らかにし、その標的遺伝子の同定、MRTF-Aの発現制御機構に関しての新しい知見も得ることができた。今後、そのエピゲノム制御に関わる分子機序の解析を行う。3、病的心筋リモデリングにおけるTRPC6/3イオンチャネル-calcineurin-NFAT転写調節経路を介したシグナルクロストークとその新規治療標的としての意義の解明においては、前年からのTRPC6/3阻害薬の各種心肥大・不全モデルにおける効果の検討とその作用機序解明、及びTRPC6/3を介するシグナルクロストークの上流・下流に存在する標的分子の解析を継続しており、TRPC3/6阻害薬の心不全モデルへの病態改善効果を確認するなど、予定通りの進行状況である。4、心不全発症におけるp300-MEF2-PGC1ミトコンドリア遺伝子発現調節経路の治療標的としての意義の解明に関しては、TRPM2の心肥大形成における意義の検討に関して成果が得られた。今後、DNp300Tgにおける心筋機能低下機構およびそこに関わるPGC1を介したエピゲノム制御機構の解析を加速させる予定である。
今後以下の研究を行う予定である。1、転写抑制HDAC-NRSF複合体による心筋遺伝子発現のエピゲノム制御機構の解明とその下流標的の同定に基づく新規心不全・突然死治療法の開発。NRSF CKOの表現系解析及びその分子機構解明、HDAC1/2ダブルCKOの作製と、そのエピゲノム解析をおこなう。また、NRSFコンディショナルTgを用いた免疫沈降法によるNRSFの新規会合分子の探索を開始する。2、Rho依存性転写活性化因子MRTF-Aの病的心血管リモデリングにおける役割のさらなる解析とそれに基づく新規心血管病治療薬開発。MRTF-Aの阻害薬を用いて、その病的心血管リモデリング予防・治療標的としての意義の確立を行う。また、Rho-MRTF-A-SRF転写経路におけるエピゲノム制御及びその標的遺伝子の解析に関して興味深い標的候補遺伝子を見出しており、さらなる解析をおこなう。3、病的心筋リモデリングにおけるTRPC6/3イオンチャネル-calcineurin-NFAT転写調節経路を介したシグナルクロストークとその新規治療標的としての意義の解明。TRPC6/3阻害薬の心不全モデルでの効果における作用機序解明、及びTRPC6/3を介するシグナルクロストークの上流・下流に存在する標的分子の解析を継続する。4、心不全発症におけるp300-MEF2-PGC1ミトコンドリア遺伝子発現調節経路の治療標的としての意義の解明。DNp300Tgにおける心筋機能低下機構およびそこに関わるPGC1を介したエピゲノム制御機構の解析の継続を、ミトコンドリア機能制御との関連に特に注目しておこなう。5、新規心筋胎児型遺伝子発現調節経路の探索とその治療的意義の検討BNPプロモーターを用いた新規遺伝子発現調節機構のスクリーニングを開始する。
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