研究課題
8週齢の野生型マウスに対してアンジオテンシンIIの持続的投与を施行したところ、10日目の時点で心重量および心房重量が増加していた。心エコーでは左室収縮能は維持されていたが心室壁の肥厚が認められ、心房組織では線維化(Masson trichrome染色)と、肥満細胞の浸潤(トルイジンブルー染色)および活性化(Rhodamine-avidin染色)が認められた。マウス心臓を摘出し、ランゲンドルフ灌流下に電気的に心房刺激を行ったところ、心房細動の誘発頻度と持続時間はコントロール群(生食投与)と比べて著しく増加していた。また、このような心房リモデリングと心房細動誘発性は、肥満細胞安定化剤クロモリンの投与により著しく抑制されたことから、肥満細胞が血行力学的負荷による心房細動発症に重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、アンジオテンシンII投与群の心房組織ではマクロファージの細胞浸潤が亢進していることが、抗Mac3抗体による免疫染色によって明らかとなった。アンジオテンシンIIの持続的投与を行ったマウスにおいて、dominant-negative MCP-1 (monocyte chem otactic protein 1)の発現ベクターを筋注しておくと、心房組織におけるマクロファージ浸潤が軽減するとともに、心房リモデリングと心房細動誘発性が有意に抑制された。更に、クロモリン投与によって肥満細胞浸潤を抑制すると、マクロファージ浸潤も抑制されていた。以上の結果より、肥満細胞-マグロファージを軸とする炎症カスケードが、血行力学的負荷による心房リモデリングや心房細動の発症に重要な役割を果たすことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究によって、肥満細胞-マクロファージを軸とする炎症カスケードが、血行力学的負荷による心房リモデリングや心房細動の発症に重要な役割を果たすことが示唆された。実験系が確立され、軸となる炎症カスケードの主要コンポーネントが明らかになったという点において、本研究は計画通りにおおむね順調に進展していると言える。
研究計画および研究体制に問題はなく、当初の予定通りに研究を推進していく。心筋ストレス刺激による炎症誘導機構と、心房線維化に関わる炎症ネットワークを解明し、その研究成果を基盤として心房細動のアップストリーム治療の標的を探索し、将来的には臨床応用を目指していく。研究代表者の赤澤の統括の下、大阪大学大学院医学系研究科の大学院生3名が動物実験および培養細胞実験を行っていく。また、連携研究者の小室との間で緊密に情報交換およびディスカッションを行い、研究課題を推進していく。
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