我々は以前心筋細胞特異的インスリン受容体ノックアウトマウスを用いた解析により、胎児期から成長期における心筋インスリンシグナルは成長に伴う生理的心肥大に必要であることを明らかにした。つぎに成体の心臓におけるインスリンシグナルの機能を明らかにするために、tamoxifen誘導型心筋特異的インスリン受容体欠損(inducible cardiac-specific insulin receptor knockout (iCIRKO))マウスを作成し、生後12週から2週間tamoxifenを投与することにより成長後に心筋インスリンシグナルが欠損するようなモデルマウスを確立した。iCIRKOマウスではtamoxifen投与開始後3週(15週齢)の時点で心エコー上左室収縮能の低下がみとめられ、成体の心臓におけるインスリンシグナルが心機能の維持に必須であることが明らかになった。そこで本研究ではiCIRKOマウスを用いて、以下の4点を検討することにより、インスリンシグナルによる心機能制御のメカニズムを解明し、新たな心不全治療法を確立することを目指す。 (1) iCIRKOマウスの表現型をさらに詳細に解析する:(2) iCIRKOマウスの心筋内シグナル伝達の変化を検討する:(3) iCIRKOマウスの心筋内エネルギー産生系について解析をおこなう:(4) iCIRKOマウスの心機能低下におけるmTORの関与を明らかにする 平成23年度に上記(1)(2)についての検討を終了し、平成24年度は主に(3)について検討した。 (3) iCIRKOマウスの心筋内エネルギー産生系について解析をおこなう:iCIRKOマウスの心臓においてはミトコンドリアの電子伝達系や脂肪酸β酸化経路の遺伝子発現が低下しており、iCIRKOマウスの心機能障害の原因がATP産生能低下である可能性を示唆する結果と考えられた。
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