研究概要 |
細気管支幹細胞は気道上皮の修復に重要と考えられている肺組織幹細胞である。2001年にvCE細胞,variant CCSP (Clara cell secretory protein)-expressing細胞,として発見され,その後の研究によって,気道分岐部のNEB (neuroepithelial body)や終末細気管支のBADJ (bronchioalveolar duct junction)のニッチに存在することが分かってきた。気道上皮細胞の細胞平均寿命は約100日と長いため,細気管支幹細胞は通常ほぼ静止状態にある。そして,細気管支幹細胞は緩やかに自己増殖を繰り返しながら,クララ細胞だけでなく,粘液細胞や線毛細胞へ分化している。肺炎症による気道傷害が生体内に発生すると,細胞供給を増やすために,細気管支幹細胞の自己増殖や分化が促進され,さらには一旦分化したクララ細胞が細気管支幹細胞へと再分化転換を起こす。しかし,細気管支幹細胞への再分化転換機構の詳細はよくわかっていない。われわれはこれまで,クララ細胞で発現している蛋白分解酵素SLPI(secretory leukocyte protease inhibitor)を取り上げ,肝細胞増殖因子の産生を刺激する作用など,蛋白分解酵素では説明できない多彩な生理機能をSLPIについて報告してきた。さらにその研究の一環として,「SLPIは細気管支幹細胞からクララ細胞への分化を促しているが,逆にSLPIの阻害は細気管支幹細胞への再分化転換を促す」ことを見い出した。そこで当該研究では,「細気管支幹細胞への再分化転換の誘導にSLPIが関わっている」という先行知見を足がかりに,再分化転換機構の分子メカニズムを明らかにすることを目指す。そして当該年度では,SLPI欠損マウスにおける細気管支幹細胞数やナフタレンの肺炎症の程度を検討した。
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