成体の腎臓は再生しない臓器であるが、胎児期の腎臓では、後腎間葉と呼ばれる組織から糸球体、近位及び遠位尿細管などネフロンを構成する多系統の細胞が分化してくる。我々は、後腎間葉に発現する核内因子Sall1が腎臓発生に必須であること、間葉中のSall1を高発現する集団に多能性の幹細胞が存在すること、さらにこの胎児型ネフロン幹細胞がSall1欠損によって出生前に枯渇することを明らかにした。本計画は、独自に作成した複数の遺伝子改変マウスを用いて、胎児期ネフロン幹細胞で働く分子ネットワークを解明し、その情報を使ってこの幹細胞を自己複製・維持させることを目的とする。通常は生後に消失するネフロン幹細胞を未分化なまま維持できれば、腎臓再生に向けて大きな一歩となると期待される。 平成23年度は以下の実験を行った。ネフロン幹細胞特異的Sall1欠失マウスでは、胎生期に幹細胞が枯渇する。また薬剤誘導性Sall1欠失マウスの胎生12.5日にタモキシフェンを投与すると1日でSall1が消失し、最終的には同じ症状になることを確認した。これらに共通して変動する遺伝子群をマイクロアレイ及び定量PCRで探索し、さらにin situハイブリダイゼーションや免疫染色で確認した。こうしてSall1の下流候補遺伝子群を同定した。今後、クロマチン免疫沈降を用いてこれらがSall1の直接の標的であるかを検討するとともに、Sall1と結合してネフロン幹細胞を維持する因子群を探索する。
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