研究課題/領域番号 |
23390231
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
足立 弘明 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), COE特任准教授 (40432257)
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研究分担者 |
祖父江 元 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20148315)
田中 章景 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30378012)
小池 春樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (80378174)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 球脊髄性筋萎縮症 / miRNA / ポリグルタミン病 / 神経変性疾患 / Dicer / AAVベクター / アンドロゲン受容体 / トランスジェニックマウス |
研究概要 |
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、アンドロゲンレセプター(AR)遺伝子の第1エキソン内にあるCAGリピートの延長に起因する緩徐進行性の下位運動ニューロン疾患であり、四肢近位部の筋力低下・筋萎縮と球麻痺を主症状とする。患者は男性のみであり、女性保因者は通常無症状である。miRNA は一部のmRNA(大抵は3'側非翻訳領域)に相補的な配列を有し、このmRNAとmiRNAとの結合により、RNA干渉のようにmRNAの分解を引き起こす。chicken β-actinプロモーターの調節下で異常延長したCAGリピート(AR97Q)をもつ、ヒト全長AR遺伝子を発現するトランスジェニックマウス(SBMAマウス)においてmiRNAの発現をマイクロアレイを用いて網羅的に解析し、miR-196aなどの発現上昇を同定した。これらのmiRNAを培養細胞を用いてSBMAの病態との関連を評価したところ、病因蛋白であるARの発現を減少させる効果があることを見いだした。さらに、AAV (アデノ随伴ウイルス)を用いてmiR-196aをSBMAマウスに高発現させると、ARもターゲットとするRNA結合蛋白質であるCELF2の発現が低下して、変異ARのmRNA発現量が低下した。AAV投与群では、変異したARの産生が抑制され、マウスの体重変化、生存率、Rotarod法(回転する棒の上につかまっていられる時間)、Cage activity測定法(24時間の動作の回数の測定)のいずれのパラメーターにおいても病態の改善効果を認めた。さらに、マウス解剖組織標本において病理学的検索や蛋白発現解析により病態修飾効果の判定を分子生物学的に行ったところ、SBMAマウスの脊髄や筋肉において変異ARの蓄積が抑制されていた。本研究により、特定のmiRNAを高発現させることによる神経変性疾患の新規治療法開発の可能性が示されたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AAV (アデノ随伴ウイルス)を用いてmiR-196aを球脊髄性筋萎縮症(SBMA)モデルマウスに高発現させることによって、個体レベルでも病因蛋白質であるARの発現を制御して、病態抑止効果を発揮することを見いだし、論文として発表し、引き続きこの治療メカニズム基づいた新規治療法の開発を行っているため。
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今後の研究の推進方策 |
球脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭葉変性症などはいずれも難治性かつ予後不良な神経変性疾患であり、有効な治療法はこれまでのところ確立されていない。神経変性疾患では、いずれも異常な蛋白質の蓄積が神経細胞に対する毒性を発揮し、これが転写障害や軸索輸送障害などのニューロンの機能障害を起こしていることが明らかになっている。今後の研究では、異常ポリグルタミン蛋白質の新たな分解促進治療法の開発を進めるために、球脊髄性筋萎縮症以外のポリグルタミン病モデルの病因mRNAの分解機構を解明して、新たな病態抑制治療の開発を行っていく。さらに、ポリグルタミン病の枠を超えて、社会的にも問題になっている認知症関連疾患であるアルツハイマー病モデルに対する分子標的治療の開発も行っていく。
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