研究課題
アルツハイマー病(AD)患者の90%以上では脳表の血管にβアミロイド(Aβ)が沈着する脳アミロイド血管症(CAA)を合併する。さらに,Aβ沈着血管の近傍には,肉眼では確認できない微小な脳梗塞(皮質微小梗塞)が散在している。これまでの研究で、皮質微小梗塞の形成にCAAと脳低灌流が協働的に作用することが明らかとなった。さらに,AD剖検脳やCAAのモデルマウス(Tg-SwDIマウス)の脳血管平滑筋細胞には,ホスホジエステラーゼIII(PDEIII)の発現が亢進していた。PDEIIIの発現が亢進するとcAMPが減少し,血管拡張能や反応性が低下することから,PDEIIIの発現亢進がAD/CAAにおける微小梗塞の発生やAβ蓄積に中心的な役割を担うという仮説を立てた.そこで,PDEIII特異的阻害剤シロスタゾールを0.3%含有する餌(または対照餌)をTg-SwDIマウスに4-12か月齢,または1.5-15か月齢まで投与した.シロスタゾールを投与されたTg-SwDIマウスでは,対照餌を投与されたTg-SwDIマウスと比べて以下の7項目において有意な改善が見られた:1)5%二酸化炭素吸入下での脳血管反応性,2)同吸入下での脳循環予備能,3)脳表アセチルコリン灌流下での脳血管反応性,4)脳内Aβ蓄積量の減少,5)Y迷路試験で評価される認知機能,6)蛍光標識Aβ1-40投与後のAβクリアランス速度,7)電子顕微鏡下での、血管内皮細胞,平滑筋細胞,周皮細胞の形態変化.さらに,後方視的な臨床観察では,シロスタゾールを投与されていた軽度認知障害患者では,未投与患者に比べて,有意にMMSEの低下が抑制されていた(約2年半の観察期間).以上より,シロスタゾールなどの血管作動薬がAD治療の新ストリームとなる可能性が高いと考え,将来の前向き臨床試験を計画中である.
2: おおむね順調に進展している
ヒト剖検脳の解析を終了し、すでにこれまでの成果の一部を学術誌に報告した(Okamoto Y et al. Acta Neuropathologica 2012).さらに、平成25年度に予定していた動物実験(薬剤投与による認知機能改善作用の検討)にも取り掛かっており、ほとんどデータが出揃ったため(投稿準備中)
動物実験によるアミロイド血管症機序のさらなる解明と治療法の開発について、海外の研究者(Southampton大学Carare医師,マサチューセッツ総合病院Eng H. Lo博士)との連携を高め、推進していく。
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