研究課題
多くの疫学調査により、胎生期の栄養環境が成人期に発症する肥満やメタボリックシンドロームに関連する可能性が指摘されている。一方、胎生期のみならず個体の成長が著しい新生児期も全身臓器の可塑性が高い時期であり、離乳前後の急激な栄養環境の変化がエピゲノムに記憶され、成人期の疾患感受性を決定する可能性がある。本研究は、従来全く知見のなかった新生児期の肝臓におけるde novo脂肪合成のエピゲノム記憶の分子機構の解明を目指す新しい試みである。具体的には、マウスの新生仔期にプロモーター領域のDNAメチル化と遺伝子発現が変動する肝脂肪合成酵素を同定し、成獣期に発症する肥満やインスリン抵抗性あるいは脂肪肝との関連を検討するものである。本年度までの研究により、新生仔期の肝臓では、新規DNAメチル化酵素Dnmt3bにより肝脂肪合成の律速酵素グリセロール3リン酸アシル基転移酵素(GPAT1)遺伝子プロモーター領域がDNAメチル化されることにより転写因子SREBP-1cのリクルートが阻害され、GPAT1の遺伝子発現が誘導されず、一方、離乳期には脱メチル化されてSREBP-1cがリクルートされるようになり、GPAT1の遺伝子発現が誘導され、脂肪合成が行われることが判明した。すなわちGPAT1遺伝子発現と肝臓脂肪合成はDNAメチル化により制御を受けることが示唆された(Diabetes 61: 2442-2450, 2012)。DNA脱メチル化の分子機構の解明は今後の課題であるが、過栄養にした母マウスより産まれた仔マウスを用いた検討により、少なくとも一部は栄養環境の影響を受けるものと考えられた。今後、DNAメチル化の網羅的解析法であるMIAMI法を用いて新生仔〜成獣マウスの肝臓サンプルについてDNAメチル化と遺伝子発現の網羅的な解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は動物個体を用いたin vivoの解析と培養細胞を用いたin vitroの解析の両者を施行している。動物個体の実験は、ほぼ予定通り進行している。一方、in vitroの解析は当初の計画以上に進展している(Diabetes 61: 2442-2450, 2012)。本研究課題の成果は英文誌に掲載されており、全体としては概ね順調に進展している。
本研究課題は、当初の研究計画に関して現時点で特に変更はない。今後、着実に成果を報告していきたい。
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Diabetes
巻: 61 ページ: 2442-2450
最新医学
巻: 67 ページ: 27-31
http://www.tmd.ac.jp/grad/cme/index.html