研究課題
我々は、正常造血幹細胞には発現を認めず、AML幹細胞に特異的に高発現する分子TIM-3を同定した。TIM-3は細胞表面に発現しているため、フローサイトメトリーにより解析可能で、AML-M3を除く殆どすべてのAML幹細胞においてTIM-3の高発現を認め、理想的なAML標的分子としての抗体治療候補と考え実験を行った。我々の樹立した抗ヒトTIM-3抗体ATIK2aは、in vitro, in vivoでTIM-3陽性AML幹細胞を傷害することを以前報告した。今回、我々が新規に開発した高度免疫不全マウス(BRGSマウス)および、同等の免疫不全マウスであるNSGマウスを用いて、異種移植実験を行った。これまでの免疫不全マウス(NRGマウス)同様にマウス内に再構築したヒトAMLに対して、ATIK2aがin vivoにおいてTIM-3陽性AML細胞に対して、細胞傷害活性を示す事を確認した。これらの治療モデルの検討に加えて、我々はAML以外の骨髄増殖性疾患において、CD34陽性CD38陰性造血幹細胞分画のTIM-3発現を解析した。その結果、骨髄異形成症候群(MDS)や慢性骨髄性白血病等においても、TIM-3が発現する異常幹細胞の存在が確認された。また、MDSにおいてはCD34陽性CD38陰性造血幹細胞分画内のTIM-3陽性細胞の割合が、AMLへの病期進行に伴い劇的に上昇していくことを見出した(論文投稿準備中)。これらの所見から、TIM-3がAMLのみならず、多くの骨髄性造血器腫瘍において腫瘍性幹細胞を標識している可能性が示唆され、今後解析症例をさらに増やして、TIM-3陽性異常造血幹細胞の生物学的意義を明らかにしていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
現時点で我々は、TIM-3がAML幹細胞のみならず、種々の骨髄系腫瘍の異常幹細胞に高発現していることを見出しており、論文投稿準備中である。またTIM-3に対するモノクローナル抗体を作成し、既にin vitroおよびin vivoにおいてTIM-3を発現する白血病幹細胞を特異的に障害するが、正常造血幹細胞は傷害しないことを確認している。すなわち、TIM-3を標的とする白血病幹細胞特異的な分子標的治療の開発の可能性を見出している。今後は、TIM-3の機能的側面の研究を行っていく必要があると考えるが、現時点での研究の進捗状況としてはおおむね予定通りに経過していると考えられる。
今後の方針として、以下に記載する二点に焦点をしぼり実験を行う。まず、一点目として、上述のようにAML以外の造血器腫瘍におけるCD34陽性CD38陰性白血病幹細胞分画におけるTIM-3発現を解析対象疾患、症例を増やし検討する。我々の現時点でのデータによると、TIM-3はAMLのみならず、多くの骨髄系悪性腫瘍において幹細胞分画に高発現しており、種々の造血器腫瘍において、白血病幹細胞に対する有効な治療標的分子となる可能性を示唆している。同時にこれらのTIM-3陽性異常造血幹細胞を純化し、マイクロアレイや次世代シーケンサーを用いて、残存する正常造血幹細胞形質を示すTIM-3陰性造血幹細胞との網羅的遺伝子発現プロファイリングの比較、および症例特異的遺伝子変異をクローンマーカーとして用いることでクローン解析を行い、TIM-3陽性異常造血幹細胞の生物学的特性を明らかにする。同時に、異種移植実験を組み合わせて行い、TIM-3陽性異常造血幹細胞が、腫瘍再構築能を有する機能的な腫瘍性幹細胞であるか否かを検討する。二点目として、TIM-3分子の白血病幹細胞における機能を明らかにする。近年、造血器腫瘍のみならず、複数の固形腫瘍においてもTIM-3が腫瘍細胞に発現することが明らかになってきている。この事実は、TIM-3が腫瘍共通抗原である可能性を示唆しており、腫瘍細胞におけるTIM-3の機能解析が必要であると考えられる。具体的には、TIM-3陽性白血病細胞株であるKASUMI-3やTIM-3陽性AML症例の白血病細胞を用いて、TIM-3のリガンドとして知られているgalectin-9とHMGB-1を用いて刺激実験を行い、刺激後の遺伝子発現変化および、生存あるいは増殖に対する影響について評価を行うことにより、白血病幹細胞におけるTIM-3の機能を明らかにする。
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