研究課題
骨髄増殖性疾患(myeloproliferative disease; MPD)は真性多血症(PV)、本態性血小板血症(ET)および原発性骨髄線維症(MF)から成り、近年ではJak2変異など特異的遺伝子異常が発見されてきているが、各疾患はそれらの遺伝子変異のみでは説明できず病態には未だ不明な点が多い。本研究では、MPDにおける新たな疾患特異的な遺伝子異常を探索・発見することを目的とし、(1)未知の転座遺伝子の探索、および(2)全エクソン解析、による包括的ゲノム解析を行っている。(1)新規開発ベクターシステムによる未知の融合遺伝子の発見:新規融合遺伝子を発見するため、cDNAライブラリーに特異配列アダプター付加し2段階環状化反応で単分子環状化DNAのみを作成する方法を開発し、体系的な融合遺伝子の探索・発見を行う新たな基盤技術の確立に成功しており、疾患への応用により高い精度で新規融合遺伝子の発見が可能となっている。本システムをMPD症例に応用することで新規融合遺伝子の探索を行っている。(2)全エクソン配列決定によるMPDの遺伝子解析:疾患特異的な遺伝子変異を探索するため、全エクソン塩基配列決定による遺伝子解析を行う。現在、若年発症ETの2症例についてエクソン解析を行っており、すでに複数の遺伝子変異候補が得られている。候補遺伝子の機能解析を開始するとともに、さらにMPD症例数を増やして全エクソン解析を行い、疾患特異的な遺伝子変異を探索する。本研究による新たな遺伝子異常の発見は、MPDの病態のみならず、新しい臨床診断そして治療法開発の基盤となるため、臨床医学への成果が期待される。
3: やや遅れている
(1)新規開発ベクターシステムの骨髄増殖性疾患(MPD)への応用による未知の融合遺伝子の発見新規融合遺伝子を発見するベクターシステムの開発として、cDNAライブラリーに特異配列アダプター付加し特異配列前後の酵素処理による2段階環状化で単分子環状化DNAのみを作成する方法を開発し、さらに本システムを基礎として新たに特異配列並置アダプター法を開発した。また、改良アダプターに固有配列および4カ所のEcoRIサイトを有するアダプターを導入することで2段階環状化を完全に遂行することが可能となった。既存の融合遺伝子を有する細胞株を対象に本システムの実証実験を行い、体系的な融合遺伝子の探索・発見を行う新たな基盤技術の確立に成功しており、疾患への応用により高い精度で新規融合遺伝子の発見が可能となっており、MPDへの応用を継続する。(2)全エクソン配列決定によるMPDの包括的ゲノム解析一方、(1)が「おおむね順調に進展している」のに対し、全エクソン解析については「やや遅れている」。エクソン濃縮の効率についてはすでに検討を終了し、若年発症ETの2症例についてエクソン解析を行っているが、実際のデータ解析において遺伝子変異のフィリタリングに想定よりも時間を費やしている。徐々にデータ解析も軌道に乗ってきており、引き続き全エクソン解析の症例を増やし遺伝子変異発見に努める。
研究目的を達成するため次の2点を中心に本年度の研究を実施する。(1)新規開発ベクターシステムの骨髄増殖性疾患(MPD)への応用による未知の融合遺伝子の発見前年度までに、2段階の核酸連結(ligation)により単分子環状化cDNA作成を可能とする新規開発ベクターシステムの開発およびその応用を開始しており、すでに実証および高精度化に成功している。現時点では明らかな融合遺伝子は発見されておらず、本年度は症例数を増やし、特に10例の若年発症の本態性血小板増多症(ET)を対象に未知の融合遺伝子発見を目指す。同時に、本システムをゲノム構造解析へ応用し、MPDにおけるゲノム構造異常を明らかにする。(2)全エクソン配列決定によるMPDの包括的ゲノム解析疾患特異的な遺伝子変異の探索のため、全エクソン解析を継続する。エクソン濃縮の効率についてはすでに検討を終了しており、若年発症ETの2症例についてエクソン解析を行っている。すでに複数の遺伝子変異候補が得られており、この候補遺伝子の機能解析を開始するとともに、Hiseq1500を用いた全エクソン解析をさらにMPDの症例を増やして行い、疾患特異的な遺伝子変異を発見しMPDの病態を明らかにしてゆく。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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