小児医療において各種の遺伝性疾患を正しく診断することは、予後の推定、合併症の予防と早期発見、遺伝カウンセリングなどにとって重要である。そのため、各疾患の原因遺伝子を同定し、遺伝子診断法を確立することが必要である。 本研究の目的は、細胞内シグナル伝達異常による先天奇形症候群の分子遺伝学的探索をおこない、新規病因遺伝子を同定しその病態を解明することである。本年度はヌーナン症候群類縁疾患(RAS/MAPAK症候群)患者の検体について、ゲノムDNAから約38 Mbのエクソン領域捕捉・濃縮し、次世代高速シークエンサーを用いた解析を行って全エクソンの塩基配列を決定した。その結果、これまで報告されていない新たな原因遺伝子であるRIT1遺伝子の変異を同定することに成功した。RIT1遺伝子の変異はこれまで原因が不明であった180人のRAS/MAPAK症候群のうち17人(9%)に認められた。RIT1遺伝子変異を有する患者では肥大型心筋症の合併率が高いことが判明した。患者で同定された遺伝子変異を導入したゼブラフィッシュでは、心臓の異常や頭部の変形が確認され、患者の臨床所見と類似する表現型と考えられた。今回の知見は、これまで機能が不明であったRASサブファミリのRIT1が古典的がん原遺伝子RAS(HRAS、KRAS、NRAS)と同じ働きを持つ可能性があることを示している。RIT1遺伝子がRAS/MAPAK症候群の病因として同定されたことにより、今後、本疾患群の病態の解明や治療への道を切り開くものとして期待される。
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