研究課題/領域番号 |
23390293
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山田 和男 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 副チームリーダー (10322695)
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研究分担者 |
吉川 武男 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, チームリーダー (30249958)
大西 哲生 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (80373281)
前川 素子 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (50435731)
豊島 学 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 基礎科学特別研究員 (90582750)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脳・神経疾患 / 遺伝子 / シグナル伝達 / ゲノム / マイクロアレイ |
研究概要 |
統合失調症における認知障害の病態仮説として、GABA系神経伝達の低下に基づく抑制性サーキットの異常が提唱されている。そこで、本課題では平成23年度にGABA合成の低下がGABA関連遺伝子群およびその下流因子に与える影響について検討し、平成24年度はGABA系神経伝達の上流因子であり、統合失調症類似の認知機能障害を惹起することが知られているカンナビノイド系シグナルパスウェイと本疾患との関係について、CB1受容体遺伝子欠損 (CB1KO) マウスを用いた下記の実験を行い、検討した。 1. CB1KOマウス‐GeneChip解析: CB1KOマウスの前頭前野背外側部および海馬での網羅的なmRNA解析を行い、CB1受容体が関与する遺伝子発現について検討した。その結果、各部位に有意な変化がみられる遺伝子群を同定した。 2. CB1KOマウス‐脳内GABA濃度測定: CB1KOマウスの脳内GABA濃度をHPLC法によって測定し、有意な変化がないことから、GABA濃度の変化が直接的に病態に関与するものではないことを確認した。 3. CB1KOマウス‐行動実験: 一連の行動表現型解析を行い、CB1KOマウスでは、統合失調症のエンドフェノタイプとされているprepulse inhibitionテスト、社会行動の指標とされるthree chambersテストおよびtubeテストで、野生型マウスと比較して行動変化がみられることを見出した。 4. パスウェイ解析: 実験結果をもとに、本疾患病態に見られる異常メカニズムの包括的な解明をめざしたin silico解析を行い、統合失調症発症の脆弱性となりうる新たなシグナルネットワークを同定した。 これらの研究結果は、GABA系神経伝達が疾患に及ぼす影響について、その分子基盤の解明に寄与するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに予定していた実験は計画通りに終了しており、本研究課題は順調に進展している。 これまでに、GABA合成酵素であるGAD67/GAD65遺伝子をヘテロで欠損させた遺伝子改変マウスを用いて、GABA合成低下が神経系に与える遺伝子発現変化の網羅的な探索と、統合失調症の病態生理に関連すると考えられているprepulse inhibition (PPI)テストやsocial interaction testなどの一連の行動表現型解析を行った。これらの実験から、当該マウスでは統合失調症類似の遺伝子発現変化および行動変化がみられることをみいだすとともに、統合失調症の臨床研究において報告されている表現型とは異なる変化もみられることを確認した。 さらに、統合失調症で示唆されている内在性カンナビノイドの変化にCB1受容体がどのように関与しているのかを確認するために、CB1受容体遺伝子欠損マウスでみられる遺伝子発現変化をGeneChipを用いて網羅的に解析し、あわせて当該マウスの脳内GABA濃度測定および行動表現型解析を行った。これらの実験を基に、CB1遺伝子の欠損がマウスでの遺伝子発現や作業記憶、社会行動、運動能力、刺激反応性などの行動に与える影響について評価した。 本研究の結果は、GABA-内因性カンナビノイド系神経伝達およびその下流シグナルの障害が包括的なパスウェイとして統合失調症の発症脆弱性をもたらしている可能性を示すとともに、疾患に関与している未知の遺伝子・パスウェイの存在を示唆するものであり、今後の研究に意義ある方向性を示すものであると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は当初の研究計画の通りに、GABA系神経伝達がどのような分子機構で統合失調症に関与しているのかを解明すべく、これまでの研究を進展させて下記の実験を行う。 1. 前年度までの実験で得られた研究データを基に、GABA系神経伝達が制御する遺伝子群の詳細なシグナルパスウェイ解析を行い、包括的な分子機構の同定と統合失調症への関与を評価する。 2. CB1受容体遺伝子欠損マウスにみられる統合失調症類似表現型の解析を継続する。特に社会性障害に与える影響についての詳細な行動解析と向精神薬投与時の野生型との差異の検討とを行い、内因性カンナビノイド系神経伝達の疾患への関与を探る。 3. 統合失調症で示唆されている内在性カンナビノイドの変化をもたらす要因を検索するため、CB1受容体遺伝子欠損マウスの前頭前野背外側部および海馬での網羅的なmiRNA発現解析を行い、これまでの遺伝子発現データとあわせた総合的なシグナルパスウェイ解析を行う。 これらの実験によって、GABA-内因性カンナビノイド系の機能的連関に基づいた統合失調症関連シグナルパスウェイの検索を行っていく予定であり、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上で問題となることは特にはない。
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