研究課題/領域番号 |
23390300
|
研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所) |
研究代表者 |
手島 昭樹 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 放射線治療科, 主任部長 (40136049)
|
研究分担者 |
松浦 成昭 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70190402)
村上 昌雄 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50210018)
出水 祐介 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50452496)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 放射線腫瘍学 / 細胞動態解析 / がん / 転移 / 浸潤能 / 炭素イオン線 / 陽子線 / 細胞運動 |
研究概要 |
本年度は種々の放射線照射後のFAK(Focal Adhesion kinase)の発現と活性化について解析した。さらに、陽子線照射線量と血管新生の関係について動物モデルを用いて検討した。 1.転移関連遺伝子・タンパク質の発現量:メラニン産生型ヒト悪性黒色腫細胞HMV-II、ヒト乳がん細胞MDA-MB231、ヒト膵がん細胞株AsPC-1、Panc1に炭素イオン線・陽子線を照射し、pFAKの発現を解析した結果、炭素イオン線は低線量から線量依存的に発現が抑制された。一方、陽子線では、2GyではpFAKの発現が亢進し、10Gyで発現低下がみられた。 2. 細胞機能実験と解析:血管内皮様細胞株ECV304に対し、陽子線照射後、血管新生に関わる管腔形成能を検討し、X線、炭素イオン線と比較した結果、2Gy照射された細胞では、X線照射細胞同様、管腔形成能が亢進し、10Gyの高線量照射では、炭素イオン線照射細胞同様、管腔形成がほとんど生じなかった。これにより、陽子線が血管新生へ与える影響は、低線量と高線量で異なることを示した。 3. 動物を用いた実験と解析:陽子線照射したメラニン産生型ヒト悪性黒色腫細胞HMV-IIをマウスに移植し、腫瘍増殖能、新生血管密度を解析した結果、陽子線2Gy照射された細胞を移植したマウス群の腫瘍増殖能及び新生血管密度は非照射細胞移植群に比べて有意な差はみられなかった。一方、10Gy照射細胞移植群の腫瘍径は非照射細胞移植群に比べ有意に小さく、新生血管数も減少し、in vitro実験との整合性がみられた。 以上より、粒子線はFAKを介した経路に影響を及ぼし、がん転移に関わる細胞運動、血管新生能を抑制させる可能性を示した。特に、陽子線は線量の違いが細胞運動や血管新生能に影響を与える為、陽子線治療において、用いる1回線量がひとつの生物学的指標となることが本研究により示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標であった3種の放射線が細胞運動・血管新生能に与える影響を細胞機能実験と解析で明らかにしており、さらにその一因となるシグナル経路の存在を示した。粒子線においては陽子線を用いた場合、がん転移に関わる因子への影響が照射線量によって異なることを示した。本研究によって、用いる1回線量が、がん転移を考慮した放射線照射のひとつの生物学的指標となる可能性を示した。よって、おおむね順調に発展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
放射線照射によって影響がみられた遺伝子・タンパクについて、分子を遺伝子レベル、タンパクレベルで阻害し、転移能への影響を細胞実験にて確かめる。遺伝子レベルの阻害にはsiRNA、タンパクレベルの阻害にはinhibitorを用いる。in vivo実験においても、着目した遺伝子をノックダウンさせた細胞をマウスへ皮下注射したxenograftを用いて転移能への影響を検討し、in vitroとの整合性を分析する。引き続き、生物学的データを集約し研究結果をデータベース化する。データベースは、実験の再現性を高める指標となる一方、統計解析ソフトSASを用いて、遺伝子、タンパク発現量、細胞機能、in vivo実験結果の相関関係を解析して、線質や線量の違いによる転移への影響を明らかにする。
|