研究課題/領域番号 |
23390307
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
尾川 浩一 法政大学, 理工学部, 教授 (00158817)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | X線 / CT / 半導体検出器 / フォトンカウンティング / 媒質同定 |
研究概要 |
今年度実施した内容は試作検出器を用いた実験および試作検出器の改良、次年度の性能評価に向けたエネルギー積分型検出器の購入と実験環境整備などである。 試作検出器を用いた実験では、さまざまな媒質(液体、固体)を用いた実験ファントムを作製しスペクトロスコピックCTを実施した。液体としては濃度や成分の異なるアルコールを用いた。また、固体としてはアクリル、アルミニウム、マグネシウム、金、プラチナなどを用いた。このほか、医療で現在使っているガドリニウム、ヨウドなどの造影剤や今後使うことが予想される金コロイド、プラチナコロイドなども試験した。これらのファントムを回転台の上に置き、被検体を回転させながらデータの収集を行い、CT画像として画像再構成した。フォトンカウンティング検出器で得られるデータにはさまざまな問題もあるが、生データに対して種々の補正を施しシステムをチューニングすることで、個々の媒質の線減衰係数を非常に高い精度で計測することが可能であることがわかり、理論値ともほとんど一致した。しかしながら、計測データにはチャージシェアリングやスモールピクセルエフェクトとなどの本質的に避けられない誤計測が発生するため、高いエネルギーのウィンドウや最低のエネルギーウィンドウの計測値は若干、理論値とずれる傾向があった。 試作検出器の改良に関しては、これを実施する予定であったが、ハードウェアの基本仕様に関わる部分の仕様の変更には非常に高額な費用が発生することがわかり、仕様レベルの変更をソフトウェアレベルにとどめることとした。これによって、当面研究に必要となる装置性能が満たされた。このため、当初、購入予定であった改良版の試作機購入の費用を、フォトンカウンティング検出器の性能を検証、比較できるエネルギー積分型検出器の購入費用に充てることにし、これを用いた実験環境の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の研究計画では、試作検出器を用いた実験および試作検出器の改良を今年度の研究内容としていた。このうち、試作検出器を用いた実験では、さまざまな媒質を用いた実験を行い、そこで得られた結果が理論的に算出された媒質の線減衰係数とどの程度違いがあるのかを検証することとしていた。試作した検出器は、一定の基本性能は出ていたが、特定の画素値が欠損する、あるいは感度均一性が気温、湿度、バイアス電圧などに依存する、モジュールの最外郭の画素値に異常が多い等の問題もあった。このため、これらを補正するためのプログラムを作り、画像再構成の過程で補正することによって、かなり質のよいデータや実験結果を得ることができた。これにより実験に関しては当初目的を達成したものと考えている。また、検出器の改良に関しては、モジュール間ギャップ等をなくす等のハードウエアレベルの仕様変更には検出器モジュールの実装方式自体を変える必要があり、これに伴って発生するコストが非常に高く、成功するとの保証もないので、ソフトウエア的に変更できるものにとどめた。この意味では当初計画が完全には達成できないことになってしまったが、ソフトウェアレベルの改良によって最低限の改良を実施した。逆に、当初予定していた費用を、フォトンカウンティング形検出器の性能比較のためのエネルギー積分型検出器の購入費用に回すことができたので、現状の臨床現場で使われているデータ収集方式(エネルギー積分形)と本研究で提案している次世代のデータ収集方式(フォトンカウンティング形)を十分に比較できる環境が整ったことになり、次年度の研究内容を充実させる足がかりができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、フォトンカウンティング検出方式の優位性を評価するために、今年度購入したエネルギー積分形検出器と比較実験を行う予定である。いままでに発表されている様々な論文を読んでも、この2種類の検出方式を同一の媒質で細かに検討されているものはなく、今後のフォトンカウンティング検出器の展開にとってこのような比較は大変貴重なものとなる。 また、この装置を用いた媒質の同定に関して、検出器性能、画像再構成方法、分離アルゴリズの種類の3つの観点から実験をかさね、その可能性を追求する予定である。フォトンカウンティングでは、エネルギー情報を得ることができる反面、そのようなエネルギーウィンドウを用いた計測となるため、個々のデータに含まれる雑音成分が増大する。このメリット、デメリットの折り合いをどのように考えるかが今後重要になると思われる。
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